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インターン期間中は、
雄英から事務所が離れている場合、
近くのビジネスホテルに泊まるか、
事務所に併設されたサイドキックの寮に
入ることになる。

今回の私は、タワーマンションの下層にある
空き部屋を使わせてもらっていた。

最初は緊張していたその空間にも、
数日過ごすうちに少しずつ慣れてきて——

それでも、毎日の訓練は慣れるどころか、
むしろどんどん難しくなっていった。

(同時に……全部……)

足場を維持しながら、防御を張って、
攻撃して、さらに救助対象を守る。

一つでも意識を外せば、すぐに崩れる。

最初は何度も失敗して、何度もやり直して、
その度にベストジーニストに無駄を指摘されて。

「遅い」
「雑だ」
「それでは守れない」

淡々とした言葉なのに、確実に核心を突いてくる。

でも——

(少しずつ、出来てる)

ほんの一瞬だけど、
“全部を同時に扱えた感覚”もあった。

それが、今の自分を支えていた。

そして数日間のトレーニングを終え、
また雄英に登校する日が来る。

翌週にはまたインターンに戻る予定だけど、
今日は一度寮に帰る日だ。

久しぶりの帰路。

見慣れた道が、少しだけ懐かしく感じる。

(なんか……戻ってきたって感じ)

寮の扉を開けると——

「あ!綺羅おかえり〜!」

すぐに声をかけてくれたのは三奈ちゃんだった。

「三奈ちゃんただいま!
うわあ〜!みんな久しぶりだ!」

自然と笑顔になる。

共有スペースにいるみんなの顔を見て、
胸の奥が少し温かくなる。

「お!星宮お疲れ!」

「帰ってきてたんだ」

「おかえりー」

次々に声がかかる。

(やっぱり、ここ落ち着くなあ)

「インターンどうだった!?」

「ベストジーニスト体調大丈夫そうだったー?」

三奈ちゃんと透ちゃんがすぐに食いついてくる。

「指導厳しくて大変だよー!
体調は大丈夫そうだった!」

苦笑いしながら答える。

詳しく話そうと思えばいくらでも話せるけど、
あの訓練の感覚は、
まだ上手く言葉にできる気がしなかった。

(うまく説明できる段階じゃないしなあ)

軽く答えながら、少しだけ肩の力が抜ける。

そのまま一度部屋に戻って荷物を置く。

制服の匂い、部屋の空気、
全部がいつも通りで、どこか安心する。

(帰ってきたなあ)

食堂に向かうと、ちょうど夕食の時間だった。

今日のメニューは竜田揚げ定食。

「これこれ!」

思わずテンションが上がる。

外での生活も悪くなかったけど、
やっぱりみんなと食べるご飯は別だ。

他愛もない会話をしながら食べる時間が、
妙に心地いい。

その後お風呂に入って、
体の疲れをゆっくりと流す。

(はあ……)

湯船に浸かった瞬間、思わず息が漏れる。

数日分の疲労が、じわじわと抜けていく感覚。

頭の中に、訓練の光景が浮かぶ。

同時に処理する感覚。

崩れた瞬間。

上手くいった、あの一瞬。

(……もっと、出来るようになりたい)

自然と、そう思っていた。

お風呂から上がって、髪を乾かして、
また共有スペースへ。

みんなと少し話して、笑って、
いつもの時間を過ごす。

でも、以前と少しだけ違うのは——

(前より、ちゃんと見えてる気がする)

人の動きも、空間の広がりも。

何かが、確実に変わり始めている。

その感覚を胸に残したまま、自室に戻る。

ベッドに入ると、すぐに眠気がやってくる。

(明日からまた授業か……)

少しだけ楽しみで、少しだけ名残惜しくて。

でも今は——

(次、もっと出来るようになろう)

そう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。









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