ヒーローの戦い方

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翌日から授業が始まり、
午前中は拍子抜けするほど“普通”の授業だった。

英語、現代文、数学。

黒板に書かれる文字も、配られるプリントも、
中学の延長線にあるような内容で、
ヒーロー科らしさはなかった。

チョークの音。

ノートをめくる音。

窓から入る春の光。

教室の空気は、どこにでもある
学校の授業とほとんど変わらない。

(……普通だ)

綺羅はノートにペンを走らせながら、
少しだけ不思議な気持ちになった。

昨日は個性把握テスト。

入学初日から除籍宣告。

あまりにもヒーロー科らしい洗礼だったから、
余計にそう感じるのかもしれない。

然し他校と違うところは、
教師がプロヒーローだと言う事だ。

英語はプレゼント・マイク。

現代文はセメントス。

数学はエクトプラズム先生だ。

授業そのものは普通でも、
先生がヒーローだというだけで
どこか特別な感じがする。

プレゼント・マイクの英語は
やたらテンションが高く、発音が妙に良い。

セメントスの授業は落ち着いていて、
黒板に書かれる文字が整然としている。

エクトプラズム先生は分身を使い、
教室のあちこちで同時に問題を解説していた。

(やっぱり雄英だなあ)

普通の授業のはずなのに、普通じゃない。

そんな感覚が少し楽しかった。

昼休みになると、教室は一気にざわついた。

椅子が引かれる音。

鞄のチャックを開ける音。

誰かが声を上げる。

「食堂行こうぜ!」

その一言をきっかけに、
流れに乗るように人が立ち上がる。

「腹減ったー!」

「行こ行こ!」

教室は一瞬で賑やかになった。

綺羅も立ち上がり、
皆の流れに混ざって食堂へ向かう。

雄英高校の食堂は、想像以上に広かった。

天井は高く、明るい光が差し込んでいる。

大きな窓から春の光が入り、
白い床を照らしていた。

カウンターには、たくさんの料理が並んでいる。

カレー、ラーメン、定食、パスタ。

メニューの多さに、
あちこちで歓声が上がっていた。

「すげー!」

「何これ!」

「迷う!」

綺羅も思わず目を輝かせる。

(すごい……)

ヒーローの学校というより、
テーマパークみたいだ。

綺羅も好きなメニューを選び、
トレイを持って席を探す。

視線を巡らせると、
見覚えのある三人が集まっていた。

ピンク色の髪の元気な女子。

落ち着いた雰囲気の蛙のような目の女子。

そして――

女子制服だけが、椅子に座っている。

そこに人がいるのは分かる。

芦戸、蛙吹、葉隠だった。

綺羅は少し笑いながら近づく。

「隣いい?」

綺羅は制服だけが見える葉隠に声をかけた。

「いいよー!」

元気な声が返ってくる。

姿は見えないけれど、そこにいるのが分かる。

綺羅は安心しながら席に着いた。

「綺羅は何にしたのー?」

芦戸が明るく言う。

「オムライス」

綺羅も笑ってトレイを見せた。

すると蛙吹が落ち着いた声で言った。

「そういえば、まだちゃんと
自己紹介してなかったわね」

蛙のような大きな目が、静かに綺羅を見る。

「私は蛙吹梅雨。梅雨ちゃんと呼んで」

「私は葉隠透!よろしくね!」

制服だけが軽く揺れた。

綺羅も少し姿勢を正す。

「星宮綺羅。よろしくね」

「知ってる知ってる!」

芦戸がすぐに言った。

「昨日のソフトボールすごかったじゃん!」

「星みたいに光ってたよねー!」

葉隠が楽しそうに言う。

綺羅は少し照れながら笑った。

「ありがとう」

「昨日マジでやばかったよね!」

芦戸が身を乗り出す。

「除籍とか言われてさ!」

「合理的虚偽だったけどね」

蛙吹が静かに言う。

「ほんと心臓に悪かったー!」

葉隠が笑う。

綺羅も思わず笑った。

あの瞬間の空気は、
今思い出しても少し胃が痛くなる。

でも。

「今日の午後、ヒーロー基礎学だよね!」

芦戸が目を輝かせた。

「何するんだろ!」

「訓練じゃないかしら」

蛙吹が落ち着いた声で言う。

「ヒーロー科の授業だもの」

綺羅も少しわくわくしていた。

(どんな授業なんだろう)

昨日の個性把握テストみたいなものかもしれない。

それとも、もっとヒーローっぽい何かだろうか。

想像するだけで、少し楽しくなる。

昼休憩を終えて、教室に戻る。

席に着くと、周りも少しずつ静かになっていく。

午後の授業開始を告げるチャイムが鳴る。

その瞬間だった。

――ガラッ。

勢いよく教室のドアが開く。

教室の入り口に、大きな影が差し込んだ。

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!
HAHAHAHAHAHAHAHA!!」

一瞬、時間が止まったように静まり返る。

そして次の瞬間。

教室が爆発した。

「えっ!?」

「本物!?」

「オールマイト!?」

平和の象徴とも言われるNo.1ヒーローの登場に
クラスは騒つく。

綺羅も元々キラキラな目がさらに輝きが増した。

「ヒーロー基礎学!
ヒーローの素地をつくる為
様々な訓練を行う科目だ!!
単位数も最も多いぞ!」

オールマイトの声が、教室全体を包み込む。

「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!
そしてそいつに伴って…こちら!!
入学前に送ってもらった個性届と要望に
沿ってあつらえた……コスチューム!!!」

「「「「おおお!!!」」」」

どよめきと歓声が混ざり合う。

綺羅の胸も、自然と高鳴った。

(戦闘訓練…!)

戦闘という言葉に、
不安というよりワクワクが勝る。

「着替えたら順次
グラウンド・βに集まるんだ!!」

オールマイトの指示にクラスは返事をして、
コスチュームが入ったケースを手に
更衣室に足早に向かった。







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