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週末から、またインターンが再開した。

朝早くに寮を出て、電車を乗り継ぎ、
高層ビル群の間を歩く。

最初は見上げるだけで圧倒されていた
タワーマンションも、
二度目になると少しだけ慣れてきた。

とはいえ――やっぱり大きい。

(何回来てもすごいなあ…)

首が痛くなるくらい見上げながら
エントランスへ向かう。

受付の人にも顔を覚えられ始めていて、
軽く会釈されるのが少し嬉しい。

エレベーターに乗り込み、50階のボタンを押す。

静かな上昇。

数字が増えていくたび、
自然と気持ちも切り替わっていく。

遊びじゃない。

ここでは、“星宮綺羅”じゃなく、
“ヒーロー候補生”として見られている。

そう思うと、背筋が伸びた。

エレベーターが開く。

ちょうどタイミングよく扉も開いた。

「時間ぴったりだな。美しい」

ベストジーニストが、
今日も完璧に整った髪型で立っていた。

「おはようございます!よろしくお願いします!」

「着替えたらすぐ下へ来たまえ」

「はい!」

「返事はイェッサだ」

「イ、イェッサ!」

数日空けただけで慣れない返事を思い出す。

借りている部屋へ荷物を置き、
ヒーローコスチュームへ着替える。

鏡の前でグローブを締めながら、
小さく深呼吸した。

前回の特訓は、本当にきつかった。

光粒子を同時制御し続ける訓練。

一つだけなら出来る。

二つも出来る。

でも、三つ、四つと増えた瞬間、意識が散る。

防御に集中すると攻撃が鈍る。

拘束を維持すると移動制御が甘くなる。

“同時にこなす”ということが、
想像以上に難しかった。

でも。

(出来るようになりたい)

仮免試験の時、強く思った。

助けながら、戦いたい。

誰かを守りながら、別の誰かを止めたい。

私の個性なら、それが出来るはずだ。

コスチュームへ着替え終え、
地下のトレーニングルームへ降りる。

広い白い空間。

壁も床も衝撃吸収仕様。

そして既に、無数の装置が並べられていた。

大小様々なドローン。

可動式ターゲット。

崩れる瓦礫を再現する装置。

救助用ダミー。

前回より明らかに規模が大きい。

「今日は“同時制御”の実践訓練を行う」

ベストジーニストが静かに言う。

「君の個性は自由度が高すぎる。
故に、“一つに集中する”だけでは
真価を発揮できない」

その言葉に、仮免試験の光景が浮かんだ。

救護所。

ギャングオルカ。

避難誘導。

拘束。

防御。

全部が一気に押し寄せたあの状況。

「君は既に、一つ一つの精度は高い。
だが、“並列”が甘い」

ベストジーニストが指を立てる。

「例えば、防壁を張りながら、
別方向へ拘束を飛ばし、
同時に味方を移動補助する。
今後の君には、それが求められる」

「イェッサ!」

返事をすると、ベストジーニストは
壁際の装置を操作した。

次の瞬間。

ガコン、と音を立てて天井のハッチが開く。

複数のドローンが浮かび上がった。

「まずは初歩だ。防御・拘束・搬送。
この三つを同時維持したまま動いてもらう」

「さ、三つ同時…!」

「不可能ではあるまい。
君は既に複数星座を並列制御できる」

ベストジーニストの目が細くなる。

「ならば、“戦闘行動”として落とし込め」

その瞬間。

ドローンが一斉に動き出した。

(来た…!)

光粒子を展開する。

まず正面にネビュラ・シールド。

同時に右側のドローンへハロー・バインド。

さらに後方へ浮遊型の光円盤を形成し、
ダミー人形を乗せる。

三つ同時。

頭の中が、一気に忙しくなる。

「遅い」

ベストジーニストの声。

次の瞬間、防壁の端をドローンの弾が抜けた。

「きゃっ!」

「防御へ意識を寄せすぎだ。
拘束精度が落ちている」

「イェ、イェッサ!」

慌てて制御を立て直す。

でも今度は、後方の光円盤がぐらついた。

「あっ、ダミーが…!」

「搬送意識が途切れたな」

厳しい。

でも、全部見られている。

ほんの僅かな意識の偏りまで。

額に汗が滲む。

それでも、不思議と嫌じゃなかった。

むしろ。

(楽しい…!)

難しい。

頭がパンクしそう。

でも、“出来ることが増えてる”感覚がある。

光粒子をさらに展開する。

防御。

拘束。

搬送。

三つの操作を、頭の中で分離する。

一つずつじゃない。

全部同時。

「そうだ」

ベストジーニストが僅かに目を細めた。

「ようやく、
“光を空間として扱う”感覚が出てきたな」

「出来ました…!」

思わず声が弾む。

インターン内に課題を終わらせる事が出来て、
本当に良かった。

「雄英に戻ってもその感覚を忘れずに続ける事だ。
君の個性は自由な粒子から
洗練された動きへと進化した。
それによって戦闘面でも強化されるだろう」

「イェッサ!」

「大技を一つ持っておくと良い。
私は直接的な攻撃の必殺技は無いが、
君の個性なら可能だ。
周りにも参考になる生徒は沢山いるだろう」

ベストジーニストは櫛で髪を整えながら話す。

「実は爆豪くんから
インスピレーション受けたものがあるんです!
ノヴァ・フレアといって、光粒子を一点に圧縮し、
閃光と同時に解放する小規模爆発技です!」

そう言いながら、手元で光粒子を集める。

一点へ圧縮。

収束。

そして――小規模爆破。

白い閃光が瞬いた。

「うむ…互いに影響を受け合う関係か。美しい」

ベストジーニストは満足げに拍手をした。

「仮免許取得試験でも
説明があったかもしれないが、
神野の悲劇以降ヒーローは、
オールマイトのような戦闘力を求められている。
繊細なマルチタスクの粒子操作が可能となった今、
雄英では戦闘力に注視するのもいいだろう。
励みたまえ」

「ありがとうございます!」

深く頭を下げる。

こうして数日にわたって付きっきりで見てもらえた
インターンは、今日で終わりを迎える。

そこで、少し気になっていたことを思い切って
聞いてみた。

「あの…ベストジーニストの復帰の目処って
ついてるんですか?」

控えめに尋ねると、
ベストジーニストはゆっくりと階段へ向かった。

「年内復帰を目指して医師と話している。
何せ腹に穴が開いているからな。
然し、君のように
私の復帰を待っている者たちもいる。
ゆっくりしてはいられない」

そう言いながら、上のリビングへ戻っていく。

後を追って階段を上がると、
地下の扉が静かに閉まった。

「そうですか…でも安静も大事ですよ!
ベストジーニスト大好きな人沢山いるので、
長く続けて欲しいと思ってますし!」

言いながら、自分もその“沢山いる人”の一人だと
気付いて、少しだけ顔が熱くなる。

ベストジーニストはそんな様子を見て、
穏やかに目を細めた。

「ありがとう」

その声は、いつもの厳しい指導の時より
少しだけ柔らかかった。







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