ヒーローコスチュームから
雄英の制服に着替えてリビングへ戻ると、
ベストジーニストが珍しくテレビをつけていた。
普段は静かなジャズか、
ニュースでも音声を絞って
流しているくらいなのに、
今日は真剣な表情で画面を見つめている。
(急にどうしたんだろう?)
少し不思議に思いながら近付くと、
ベストジーニストは視線を
テレビへ向けたまま口を開いた。
「雄英のインターン生が関わっているそうだ」
「え…」
その一言で胸がざわつく。
自然とテレビへ目を向けた。
《今朝、指定ヴィラン団体である死穢八斎會事務所に
警察、そしてヒーローによる家宅捜査が行われ、
対する死穢八斎會は強く抵抗した結果、
ヒーローとヴィランによる戦闘が
死穢八斎會敷地内で起こったとの事です。
これにより、死穢八斎會敷構成員は
全員拘束されましたが、死亡者も出た
悲惨な事件となりました。》
「死亡者って…」
思わず呟く。
ニュース番組独特の淡々とした声が、
逆に現実味を強くしていた。
画面が切り替わる。
そこに映ったヒーローを見て、
息が止まりそうになった。
《搬送された病院で死亡が確認されたのは、
サーナイトアイ事務所のサーナイトアイ。
かつてオールマイトのサイドキックも務めていた
経歴のあるヒーローです。》
「緑谷くんのインターン事務所だ…」
胸がぎゅっと締め付けられる。
サーナイトアイ事務所。
そこに緑谷くんが行っている事は知っていた。
ニュースで“死亡”という言葉と一緒に
聞きたくなかった名前だった。
《今回のヒーロー事務所には、
雄英のインターン生も数名いたとの情報が
ありますが、全員無事との事です》
(良かった…)
心の底からそう思った。
けれど、安心する暇もなく、
アナウンサーは続ける。
《然し、ここで事件は終わりではありません。
逮捕された死穢八斎會若頭、治崎 廻を護送中。
ヴィラン連合に護送車が襲われ、
サンドヒーロー スナッチが対抗するも敗北し、
亡くなったとの情報が入ってきております。
治崎 廻は両腕を手錠より下から
切り落とされた状態で発見されたとの事で、
ヴィラン連合の目的は不明なまま。
公安局、そして警察はこの事件を重く受け止め、
夕方4時に記者会見が行われるとの事です》
ヴィラン連合。
その名前が出た瞬間、
空気が一気に冷えた気がした。
神野。
林間合宿。
何度も関わってきた存在。
そしてまた、ヒーローが死んだ。
軽やかなCM音楽が流れ始める。
さっきまで死亡者のニュースを
流していたとは思えないほど明るい音だった。
ベストジーニストは静かにリモコンを手に取り、
テレビを消す。
部屋がしんと静まり返った。
「二人もヒーローが亡くなるとは…残念だ。
君のクラスメイトもいたようだが、
無事で良かった」
「はい…びっくりしました」
それしか言葉が出なかった。
ソファへ座りながらスマホを開く。
ネットニュースには、
もう事件の記事が大量に並んでいた。
死穢八斎會。
治崎 廻。
ヒーロー側多数出動。
死傷者あり。
記事を読み進めるたびに、現実感が増していく。
関わっていた事務所の欄には、
サーナイトアイ事務所。
リューキュウ事務所。
ファットガム事務所。
見覚えのある名前が並んでいた。
(緑谷くんだけじゃなく、お茶子ちゃんや梅雨ちゃん
切島くんまで…)
数日前まで普通に教室で笑っていた同級生たちが、
死亡者の出る現場にいた。
それが急に現実として重くのしかかってくる。
怖かっただろうか。
無事でも、平気ではいられないんじゃないか。
そんな事ばかり考えてしまう。
それに――
護送中のヴィラン連合の襲撃。
またあの組織だ。
いつも、どこかで絡んでくる。
偶然じゃない。
確実に、“次”へ向かって動いている。
自然と表情が険しくなっていた。
「ヒーローを続けていると、
こうして殉職する者は自ずと出てくる」
ベストジーニストが静かに口を開く。
「決して慣れる事はない心痛む話だが、
彼らの死によって不安を抱く市民を
我々は支えて希望の光にならなくてはならない。
オールマイトのような圧倒的な力が無くとも」
そう言って、右手を静かに握り締めた。
その姿を見ながら、胸の奥が熱くなる。
悲しい。
怖い。
でも。
それでもヒーローは前を向かなきゃいけない。
「…はい」
小さく頷く。
理想は変わらない。
どんな状況でも。
不安の中にいる人を照らせるような。
希望の光になれるヒーローを目指したい。
そう、改めて強く思った。
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