朝、目が覚めると久しぶりの自室の天井が
視界に入った。
インターン中は早起き続きだったせいか、
自然と目が覚める。
まだ眠気は残っているけれど、
体は思ったより軽い。
ベッドから起き上がり、
部屋着へ着替えてから洗面所へ向かった。
顔を洗って歯を磨く。
冷たい水でぼんやりした頭が少しずつ冴えていく。
鏡に映る自分を見ると、
少しだけ表情が引き締まった気がした。
ベストジーニストとの特訓の影響だろうか。
気持ちの切り替えが前より早くなった気がする。
軽く髪を整えてから、
一階へ降りて朝食を取りに向かった。
まだかなり早い時間帯だからか、
共有スペースは静かだった。
いつもの賑やかさはなく、テレビもついていない。
そんな中で目に入ったのは、
制服姿の爆豪と轟だった。
二人とも既に準備を終えていて、
今から出掛けるところらしい。
(あ、補講かな)
そう思いながら近付く。
「爆豪くんと轟くんおはよー!
もしかして仮免補講?」
軽く手を振りながら声を掛ける。
轟が先に振り返った。
「おはよう。こっち帰ってたのか」
「夜に着いたから二人とも寝てたんだね!」
そう返すと、爆豪は椅子から
立ち上がりながらこちらへ視線だけ寄越した。
相変わらず目付きが悪い。
でも、以前みたいに露骨に追い払う空気ではない
気がする。
「ちっ…朝からうるせえな…もう行くぞ」
舌打ち混じりに言いながら、爆豪は先に歩き出す。
「ああ、星宮悪い。仮免補講行ってくる。
先生が引率で待たせてんだ」
轟は律儀に説明してくれた。
本当に真面目だ。
仮免を落とした事をまだ少し気にしているのか、
以前より補講に対して真剣さが増している気がする。
「うん!呼び止めてごめんね!
頑張ってねー!爆豪くんも!」
笑いながら二人へ手を振る。
すると、先を歩いていた爆豪が振り返りもせずに、
「おまけみてえに言うな!」
とキレた。
その言い方があまりにもいつも通りで、
思わず吹き出しそうになる。
「別におまけじゃないよー!」
そう返す頃には、二人はもう玄関へ向かっていた。
轟は小さく手を上げて、それから爆豪の後を追う。
朝日が差し込むエントランスへ消えていく
二人の背中を見送りながら、ふっと息を吐いた。
(なんだかんだ仲良く補講行ってるなあ…)
もちろん本人たちは否定するだろうけど。
喧嘩して、謹慎して、それでもこうして並んで
補講へ行く姿を見ると、不思議と少し安心した。
そして自分もキッチンへ向かう。
今日は久しぶりに学校だ。
皆が戻って来た時、
少しでも安心出来る空気を作れるように。
自分もちゃんと前を向こうと思った。
朝食を食べ終えた後、
共有スペースのソファで少しだけ休憩する。
まだ朝早い時間だからか、
寮の中も比較的静かだった。
テレビでは朝のニュース番組が流れているけれど、
誰も真剣には見ていない。
綺羅もぼんやり画面を眺めながら、
冷たい水を一口飲む。
インターン前だったら、そのまま皆と
だらだら話して過ごしていたかもしれない。
でも今は、体を動かしたい気持ちの方が強かった。
立ち上がり、自室へ戻って運動着へ着替える。
鏡の前で髪を一つにまとめながら、
小さく息を吐いた。
(ダラダラしちゃうと美しくないよね)
ベストジーニストの言葉や立ち振る舞いは、
思った以上に染み付いている。
姿勢。
所作。
時間の使い方。
全部に“無駄がない”。
その影響か、最近は自然とトレーニングを
怠りたくないと思うようになっていた。
もちろん、皆とソファで話しながら
のんびりする時間も好きだ。
でも、インターンが始まった頃から
朝に軽く走る習慣をつけてみると、
一日の体の軽さが全然違った。
頭も冴える。
個性の感覚も鋭くなる気がする。
運動靴を履き、寮の外へ出る。
朝の空気は少し冷たくて気持ちいい。
空を見上げれば雲は薄く、
綺麗な青色が広がっていた。
深呼吸すると肺の中まで空気が通っていく。
そのまま軽くストレッチを始めた。
脚を伸ばし、肩を回し、足首をほぐす。
以前より柔軟もかなり楽になった気がする。
特訓中、空中姿勢制御を安定させる為に
体幹や柔軟もかなり鍛えられたせいだろう。
「よしっ」
小さく気合を入れて走り出す。
雄英の広い敷地内を一定のペースで駆ける。
最初は軽めに。
呼吸を整えながら、足の感覚を確認する。
朝の校舎は静かだった。
まだ授業前だから人影も少ない。
遠くでサポート科らしき生徒たちが
何か大きな機材を運んでいるのが見えた。
グラウンドの方では
運動部の朝練が始まっているらしく、
掛け声が風に乗って聞こえてくる。
そんな音を聞きながら走っていると、
自然と頭の中も整理されていく。
インターン。
死穢八斎會。
ニュース。
重たい話ばかりだった。
でも、自分に出来る事を止める理由にはならない。
むしろ、だからこそ強くならなきゃいけない。
足に少し力を入れる。
速度を上げる。
風が頬を撫でる感覚が心地いい。
(もっと速く動ける)
そんな感覚があった。
個性を使わなくても、体そのものが以前より軽い。
インターンで積み重ねたものは、
ちゃんと自分の中に残っている。
走りながら、自然と口元が緩む。
早く試したい。
もっと動きたい。
新しい技も。
新しい戦い方も。
そして――
皆が戻ってきた時、
ちゃんと隣に立てる自分でいたい。
そんな事を思いながら、
綺羅は朝の雄英を駆け抜けていった。
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