ある日の教室は、朝から少し賑やかだった。
後ろのスペースで中心になっていたのは
三奈ちゃんで、机を端へ寄せると、
軽く肩を回して準備運動を始める。
「見て見てー!見ててー!」
そう言った次の瞬間。
軽快なリズムに合わせるように、
三奈ちゃんの身体が大きく動いた。
ステップ。
ターン。
跳ねるような足運び。
全身が滑らかに繋がっていて、
見ているだけで楽しくなる動きだった。
「三奈ちゃん凄ーい!」
思わず拍手が出る。
本当に凄かった。
ただ踊ってるだけじゃない。
重心移動も姿勢も綺麗で、動き全部に勢いがある。
見ているこっちまで身体を
動かしたくなるようなダンスだった。
「彼女、ダンスが趣味なんだよね☆」
青山くんがキラリとウインクしながら
隣の緑谷くんへ話す。
「芦戸さんは身体の使い方がダンス由来なんだよね。
なんというか・・・全ての挙動に全身を使う感じだ」
緑谷くんは早速ノートを取り出して
書き込み始めていた。
インターンから戻ってきてからも、
やっぱりそこは変わらない。
真面目というか、オタクというか。
「僕もやってみようかな…」
ぽつりと呟いた緑谷くんに、
「教えてもらえば?」
上鳴くんが軽く背中を押す。
「オーケーボォオイレッツダンスイ!!」
聞こえていたのか、三奈ちゃんが勢いよく
緑谷くんを呼び寄せた。
ついでみたいに青山くんまで巻き込まれている。
そのまま始まったダンスレッスンは、
案の定かなり面白かった。
ぎこちない緑谷くん。
無駄にキメ顔な青山くん。
それを笑いながら修正する三奈ちゃん。
教室中から笑い声が上がる。
戦闘訓練とは全然違う空気。
好きなことを純粋に共有しているだけなのに、
見ているだけで楽しくなった。
「ヒーロー活動にそのまま活きる趣味は
良いよな!強い!」
上鳴くんが感心したように言う。
その時だった。
「……」
百ちゃんの隣で、響香ちゃんが
何とも言えない顔をしているのが見えた。
(あれ?)
どうしたんだろう。
別に空気が悪いわけじゃない。
でも少しだけ、複雑そうだった。
「趣味といえば耳郎のも凄えよな」
上鳴くんが何気なく話を振る。
「ちょっやめてよ」
響香ちゃんがすぐに反応した。
イヤフォンジャックがぴくっと揺れる。
「お前の部屋、楽器屋みてーだったもんなァ。
ありゃ趣味の域超えてる」
「もお、やめてってば…!
部屋王 忘れてくんない!?」
本気で嫌そうだった。
でも怒ってるというより、照れとも違う。
なんというか。
大事なものを不用意に人前へ出された時
みたいな顔。
綺羅は思わず響香ちゃんの横顔を見つめた。
(そんな嫌がる事かな…?)
音楽が好きなのって、すごく素敵なことだと思う。
だから余計に不思議だった。
「いや ありゃプロの部屋だね!!
何つーか正直かっ…──!?」
上鳴くんの言葉は途中で止まった。
響香ちゃんがイヤフォンジャックを
目の前へ突きつけたからだ。
「マジで!」
顔を赤くした響香ちゃんは、
そのまま上鳴くんを黙らせて席へ戻っていった。
「…な、何で……?」
上鳴くんが本気で分かっていない顔をしている。
百ちゃんも困ったように首を傾げていた。
(褒められるの苦手なのかな…?)
でも、ただ照れてるだけとも少し違う気がした。
そんなことを考えていると。
キーンコーンカーンコーン――
チャイムが鳴る。
皆が慌てて席へ戻った直後、教室の扉が開いた。
相澤先生だった。
いつも通りの気だるそうな足取り。
それなのに、その姿を見ると何だか少し安心する。
教卓前へ立った相澤先生は、一拍置いてから、
「えー、文化祭があります」
と言った。
その瞬間。
「「「ガッポオオォイ!!」」」
教室が爆発した。
「文化祭!!」
「ガッポいの来ました!!」
「何するか決めよー!!」
一気に騒がしくなる。
さっきまでのダンスの楽しそうな空気が、
そのまま教室中へ広がったみたいだった。
そんな中。
「いいんですか!?この時世にお気楽じゃ!?」
水を差したのは、まさかの切島くんだった。
(え、切島くん!?)
思わずそっちを見る。
いつもなら一番盛り上がってる側なのに。
「切島…変わっちまったな」
上鳴くんが半分冗談みたいに言う。
「でもそーだろ!敵隆盛のこの時期に!!」
切島くんは真面目な顔のままだった。
その言葉に、一瞬だけ教室が静かになる。
インターンで実際に大きな事件へ関わったからこそ、
感じるものがあるんだろう。
「もっともな意見だ。
しかし雄英もヒーロー科だけで回ってるワケじゃない。
体育祭がヒーロー科の晴れ舞台だとしたら、
文化祭は他科が主役。
注目度は比にならんが、
彼等にとって楽しみな催しなんだ。
そして現状、寮制をはじめとした
ヒーロー科主体の動きに
ストレスを感じてる者も少なからずいる」
相澤先生は淡々と説明した。
でもその言葉には重みがあった。
「そう言われると…申し訳ねえな」
切島くんは納得したように席へ座る。
「だから、そう簡単に
自粛とするワケにもいかないんだ。
主役じゃないとは言ったが、
決まりとして1クラス1つ出し物をせにゃならん。
今日はそれを決めてもらう」
そう言い残して。
相澤先生は寝袋へ潜り込み、
そのまま教室の隅で動かなくなった。
つまり。
(ここからバトンタッチってことだ)
そう理解した瞬間、
飯田くんと百ちゃんが立ち上がった。
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