女子更衣室は、扉を開けた瞬間から賑やかだった。
ロッカーの扉が開く音。
ケースのロックが外れる音。
布が擦れる音。
そして――
あちこちから歓声が上がっていた。
「うわー!」
芦戸ちゃんの声が響く。
「見てこれ!」
手にしているのは、
薄紫とグリーンの迷彩柄のボディスーツ。
ぴったりと体にフィットするデザインで、
動きやすそうだ。
「めっちゃ派手じゃない?」
芦戸がくるっと一回転する。
スーツの迷彩柄が光の中で
鮮やかに浮かび上がった。
「芦戸ちゃんっぽいね」
思わず笑顔になる。
元気で派手で、どこか楽しそう。
まさに芦戸ちゃんらしいコスチュームだった。
「梅雨ちゃんのは?」
芦戸ちゃんが隣を覗き込む。
梅雨ちゃんが静かにスーツを広げた。
淡いグリーンとイエローグリーンのボディスーツ。
細い縦ラインの模様が入っている。
そして、
大きな黄色のゴーグルが頭にかけられていた。
「カエルモチーフね」
梅雨ちゃんが淡々と言うと
「めっちゃ梅雨ちゃん!」
と芦戸ちゃんは笑顔になった。
「動きやすそう」
私も思わずうなづく。
シンプルだけれど、
梅雨ちゃんの個性にぴったり合っている。
その横では。
女子制服がロッカーの前に立っていた。
葉隠ちゃんだった。
「私のこれー!」
次の瞬間。
空中に浮かんだのは――
グローブとブーツ。
それだけだった。
一瞬、空気が止まる。
「え?」
芦戸ちゃんが目を瞬かせる。
「それってさ……」
沈黙。
そして。
「……全裸って事?」
更衣室が一気にざわついた。
「え!?違う違う!」
葉隠ちゃんの声が慌てて響く。
「透明なだけだから!」
「いやでもさ!」
芦戸ちゃんが笑いながら言う。
「見えないだけで全裸じゃん!」
「うわー!」
女子更衣室に笑い声が広がる。
(確かに……)
見えないだけで、そう見えてしまう。
その時だった。
「こちらが私のコスチュームですわ」
落ち着いた声が響く。
振り向くと、八百万さんがコスチュームを
身に着けていた。
赤を基調にしたスーツ。
胸元は大きく開いている。
露出度は高い。
女子達が一瞬ざわつく。
「おお……」
「大胆……」
芦戸ちゃんが思わず声を漏らす。
八百万さんは少しも気にした様子がなかった。
むしろ堂々としている。
「私の個性は“創造”です」
落ち着いた声で言う。
「体内のエネルギーを元に物質を作り出します。
そのため、皮膚の露出面積が多い方が
合理的なのです」
理路整然とした説明だった。
誰も反論できない。
「なるほど……」
葉隠ちゃんが感心したように言う。
「めっちゃ合理的!」
芦戸ちゃんもうなづく。
八百万さんは当然のように姿勢を正している。
自分のコスチュームに迷いはなかった。
その中で。
私も自分のケースを開いた。
中に入っているのは――
自分のヒーローコスチューム。
薄く光を反射する素材。
スターライトのエネルギーを
最大限に活かすための設計。
(これが……)
ヒーローコスチューム。
胸の奥が少し高鳴る。
雄英に来て。
ヒーロー科に入って。
そして今。
初めて着る、自分のヒーロースーツ。
私はポニーテールを軽く払うと、
ゆっくり袖を通した。
スーツは体にぴたりと馴染む。
動きやすい。
軽い。
鏡の前に立つ。
そこに映るのは――
ヒーローの姿だった。
「わっ」
芦戸ちゃんが振り向く。
「綺羅のもかっこいい!」
女子達の視線が集まる。
なんか照れるな。
でも胸の奥は、ずっと高鳴っている。
これから始まるのは――
ヒーローの訓練。
その第一歩だった。
✳︎
..