補講最終日を終え、
ようやく肩の力を抜いて寮へ戻る。
共有スペースへ入った瞬間、
わっと熱気が押し寄せてきた。
まだ文化祭の話し合いは続いているらしい。
机の上にはメモや飲みかけのジュースが
散らばっていて、皆かなり本気で
話し合っていたのが分かる。
「うーす」
切島くんが少し疲れた声で言う。
その声に、話し合いの輪が一斉にこちらを向いた。
「補習 今日でようやく穴埋まりました!
本格参加するよー!」
お茶子ちゃんがぱっと笑う。
その顔がすごく晴れやかで、
思わずこっちまで嬉しくなった。
インターン以降、ずっとどこか張っていた空気が
少しずつ戻ってきている気がする。
「今どこまで決まったのー?」
ソファの後ろから覗き込むと、
どうやら今はバンドのボーカルを
決めている最中らしい。
「へ?歌は耳郎ちゃんじゃないの?」
お茶子ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「いや まだ全然…」
響香ちゃんは手を振って否定した。
どうやら本人はやる気じゃなかったらしい。
でも。
その話題が出た瞬間。
「ボーカルならオイラがやる!モテる!」
峰田くんが勢いよく手を挙げ、
「ミラーボール兼ボーカルは そうこの僕☆」
青山くんはキラッキラしながらターンを決め、
「オウ!楽器はできねーけど歌なら自信あんぜ!」
切島くんまで参戦した。
(急に立候補増えた!?)
そしてそのまま、
何故か即席オーディションが始まる。
……が。
正直。
(う、うーん……)
皆それぞれ勢いはある。
勢いは。
でも“上手い”とはまた別だった。
共有スペースに何とも言えない空気が流れる。
「私も耳郎ちゃんだと思うんだよ!」
その空気を切り裂いたのは葉隠ちゃんだった。
「前に部屋で教えてくれた時、
歌もすっごくカッコよかったんだから!」
その言葉に、響香ちゃんが一瞬目を見開く。
すぐに視線を逸らして、
「ちょっと…ハードルあげないでよ」
困ったように笑った。
でも。
少しだけ耳が赤い。
「いいから いいから」
葉隠ちゃんは引かない。
「オイラ達の魂の叫びを差し置いて…
どんなモンだよコラ・・・?ええコラ!?」
峰田くんが謎の圧をかけ、
「耳郎の歌聴いてみてェな!いっちょ頼むぜ!」
切島くんまで真剣な顔で後押しする。
完全に逃げ道がなくなった響香ちゃんは、
観念したみたいに小さく息を吐いた。
そして。
マイクスタンドの前へ立つ。
その瞬間。
空気が変わった。
スゥッ――
深く息を吸う音。
それだけで、不思議と皆が静かになる。
流れ始めた歌声は。
想像していたより、ずっと凄かった。
洋楽。
難しいはずなのに、全然危なっかしくない。
音程が安定していて、声に芯がある。
それでいて柔らかくて、耳へ自然に入ってくる。
気付けば、誰も喋っていなかった。
聞き入っていた。
ただ純粋に。
歌に。
曲が終わる。
一瞬の静寂。
そのあと。
「「「おおおおおーーー!!!」」」
拍手と歓声が一気に爆発した。
「すっご!!」
思わず立ち上がりそうになる。
「耳郎ちゃんめちゃくちゃ上手いじゃん!!」
「……だから嫌だったんだよこういうの」
響香ちゃんは顔を真っ赤にしながら目を逸らした。
でもその顔は、少しだけ嬉しそうでもあった。
こうして。
ボーカルは満場一致で響香ちゃんに決定した。
「……じゃあ、それはそれで…」
響香ちゃんは照れたまま、
でもすぐ気持ちを切り替えて次の話を始める。
その姿がちょっと格好良かった。
「あとギター!!2本ほしい!」
「やりてー!!楽器弾けるとかカッケー!!」
上鳴くんが即座に手を挙げる。
「やらせろ!!」
峰田くんも続いた。
……が。
実際にギターを持った瞬間、
小柄すぎてバランスが取れず却下された。
「ちっちゃ…!」
「うるせェ!!」
そのやり取りに笑いが起きる。
結局、もう一本は経験者の常闇くんに決まった。
そこからは話が一気に進んでいった。
ボーカル兼ベースが響香ちゃん。
ギターが上鳴くんと常闇くん。
キーボードが百ちゃん。
そして。
ドラムが爆豪くん。
「かっちゃんドラムなんて出来るの!?」
緑谷くんが素直に驚く。
「出来るわクソが!!」
即座に怒鳴り返す爆豪くん。
でも否定はしない。
つまり本当に出来るらしい。
「爆豪くん楽器まで出来るんだ!
器用なのいいなー!」
思わず感心すると、
「ドラムくらい誰でも叩けんだろ」
爆豪くんは当たり前みたいに吐き捨てた。
いや絶対誰でもじゃない。
そう思っていると、本人はもう話は終わりと
言わんばかりに部屋へ戻ろうとする。
でも。
「待て待て待て!まだ終わってねえ!」
上鳴くんに腕を掴まれて引き戻されていた。
ちょっと面白い。
「演出は、轟、瀬呂、切島、口田と
綺羅で残りはダンスだね!」
三奈ちゃんがパンッと手を叩く。
演出組。
その言葉に少しわくわくした。
ステージ全体を光で作る。
音楽と合わせる。
絶対楽しい。
「文化祭成功させよー!」
三奈ちゃんが勢いよく拳を上げる。
それにつられるように、
「「おー!!」」
共有スペースに声が重なった。
久しぶりに。
事件とか訓練とかじゃなく。
ただ“楽しいこと”へ向かって
皆が盛り上がっている気がした。
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