文化祭に向けて、本格的な準備期間が始まった。
教室の空気も、放課後の共有スペースも、
最近はずっと文化祭の話題で持ちきりだ。
ダンス組は毎日のように外で練習しているし、
バンド組も音合わせを始めているらしい。
そして演出担当の自分も、
かなり忙しくなっていた。
ライブステージ。
クラブイベント。
イルミネーション演出。
空いた時間にはスマホで動画を見漁って、
光の動きやタイミングを研究する。
同じ“光”でも、見せ方で空気が全然変わる。
静かに照らすのか。
一気に弾けさせるのか。
点滅。
流れ。
視線誘導。
考え始めると止まらなかった。
「わ、これ綺麗…!」
教室でも、気付けばスマホを見ながら
一人でテンションが上がっている事が多い。
そして自然と、裏方組と話す時間も増えていった。
「あ、轟くん!ちょっといいかな?」
休み時間。
自分の席を立って、轟くんの机へ向かう。
最近はこうやって話しかけるのも
だいぶ自然になってきた。
「序盤の構成なんだけど、スポットの当て方で…」
スマホを開きながら説明する。
「こんな感じはどうかな?
盛り上がっていく感じが良くて」
イメージ動画を見せると、
轟くんが少し身を寄せて画面を覗き込んだ。
距離が近い。
でも本人は全然気にしていない顔だった。
「良いんじゃねえか?」
動画を見終えた轟くんが顔を上げる。
「ほんと?後で瀬呂くん達にも聞いてみるね!」
自然と笑顔になる。
案を肯定してもらえると普通に嬉しい。
「あと放課後は体育館の広さを見に行こう。
その方が星宮の光もイメージしやすいだろ」
轟くんが続ける。
(確かに)
実際の広さを見た方が、
光の展開範囲も計算しやすい。
「現場見とくの大事だね!裏方皆んなで行こ!」
そう返すと、
「裏方組捗ってるね!」
轟くんの後ろの席から
葉隠ちゃんが声を掛けてきた。
「これでもざっくりと決まってるだけだよー!
ダンス組はどう?
私踊ったことないから皆んな凄いなー」
そのまま葉隠ちゃんとの会話へ移る。
「三奈ちゃんの教え方上手だから
初心者でも結構踊れてるよ!
振り付け覚えるの大変だけど!」
「練習積んで体に覚えさせるしかないねー」
そう言った瞬間。
後ろから妙な気配がした。
「体に…!?」
振り返ると、峰田くんが何故か顔を赤くしている。
(また変なこと考えてる)
最近もう分かるようになってきた。
その反応だけで大体察せる。
「最低」
耳郎ちゃんが即座に冷たい目を向けていた。
文化祭準備が始まってから、
こういう何気ない会話が増えた気がする。
体育祭。
林間合宿。
敵連合。
インターン。
ずっと濃い出来事ばかりだった。
でも今は、“学校行事”をやっている。
それがなんだか嬉しかった。
普通の高校生みたいで。
少しだけ、肩の力が抜ける。
そんな風に葉隠ちゃん達と笑っていると。
ふと。
視線を感じた。
何気なく前を見る。
すると、爆豪くんが席に座ったまま
こちらを見ていた。
……いや。
正確には。
こっちというより、
轟くんの方を見ている気がする。
その瞬間。
「チッ…」
小さな舌打ちが聞こえた。
(え、何で?)
思わず首を傾げる。
でも爆豪くんはすぐ前を向いてしまって、
何に機嫌を悪くしたのか全然分からなかった。
✳︎
..