「わあー!ダンス組の衣装可愛い!」
思わず声が弾んだ。
本番当日の控え室。
慌ただしく人が行き交う中でも、
ダンス組の衣装はひときわ目を引いた。
女子は鮮やかな黄色のジャケットに、
ボリュームのあるフリルスカート。
動くたびに裾がふわっと揺れて、
ステージ映えしそうな華やかさがある。
「既存衣装にサイズ詰めただけだけど、
良い感じだよね!」
葉隠ちゃんはくるりと一回転して見せた。
「可愛い〜!絶対映える!」
思わず拍手してしまう。
「男子は同じ色のスーツが統一感あって良いね!」
男子側へ目を向ける。
尾白くん達もかなり似合っていた。
派手だけど文化祭らしくて、
見ているだけでテンションが上がる。
でも。
そこでふと、違和感に気付いた。
(あれ…?)
人数が足りない。
「そういえば緑谷くんは?
ずっと見かけないけど…」
そう聞くと、
「緑谷くんなら、ロープを買いに外出してから
戻ってきていない」
飯田くんが腕時計を確認しながら答えた。
その声は冷静だったけれど、少し硬い。
「当日に何やってんだよあいつはよおお!」
峰田くんが声を荒げる。
それは皆んな同じ気持ちだった。
ステージ開始は十時。
時計はもう九時を過ぎている。
準備を進めながらも、
皆んな何度も入口を気にしていた。
けれど。
九時半になっても、緑谷くんは戻って来なかった。
控え室の空気が少しずつ重くなる。
そんなタイミングで、扉が開いた。
「失礼する」
入ってきたのは相澤先生。
その後ろには通形先輩と、小さな女の子
――エリちゃんの姿もあった。
「エリちゃんだー!今日も可愛い〜!」
麗日ちゃんと梅雨ちゃんがすぐに駆け寄る。
エリちゃんは少し緊張しながらも、
二人を見ると安心したように小さく笑った。
「本番前に会おうと思ったけど
緑谷くんはどこに?」
通形先輩が周囲を見渡す。
その瞬間。
控え室の空気が静まった。
誰もすぐには答えられない。
「緑谷くん、1時間以上前に外出してから
戻ってなくて……」
近くにいたオールマイトが、
心配そうに相澤先生へ伝えた。
「戻って来ていない……?」
低い声。
相澤先生の眉間に皺が寄る。
その表情だけで、
かなり苛立っているのが分かった。
「間に合わなかったらどうしよう……!」
オールマイトの不安げな声が落ちる。
そして。
その言葉は、エリちゃんの耳にも届いていた。
「あ……!」
オールマイトが慌てて口を押さえる。
でももう遅かった。
「デクさん……踊らない……?」
エリちゃんの小さな声。
不安そうな顔。
期待していたのが伝わってきて、
胸がきゅっと痛くなる。
気付けば、自然と足が動いていた。
エリちゃんの前にしゃがみ込む。
なるべく目線を合わせる。
「緑谷くんなら大丈夫だよ!
エリちゃんの為に走って戻ってくるよ!」
そう言って笑いかける。
すると、
「ほんと…?」
不安で揺れていた目に、少しだけ光が戻った。
「うん!心配させるけど
いつも無事だから大丈夫!」
そう言うと、
「うんうん!」
後ろで麗日ちゃんも強くうなずいた。
エリちゃんは小さく、小さくうなずく。
ちゃんと信じようとしてくれているのが分かった。
その様子を見届けると、
青山くんが急に立ち上がる。
「僕が迎えに行くよ☆」
そう言って、そのまま控え室を飛び出して行った。
(緑谷くん…)
何かあったんだろうか。
でも。
今は信じるしかない。
時計はどんどん進んでいく。
そして本番十分前。
自分も裏方組と一緒に体育館二階へ向かった。
照明。
光粒子。
ステージ全体。
やる事は山ほどある。
下を見れば、観客席には既に
沢山の人が集まり始めていた。
文化祭本番。
もうすぐ始まる。
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