「星宮、周る奴いねえのか?」
文化祭のステージが終わり、
片付けも一段落した頃だった。
演出担当として一緒に
準備してきた時間が長かったからだろうか。
俺は特に深く考えずに声を掛けていた。
ステージは成功した。
星宮の光も綺麗だった。
エリちゃんも楽しそうだった。
それだけでも十分だったが、せっかくの文化祭だ。
まだ少し時間もある。
一緒に回る奴がいないなら、
そのまま何人かで回ればいいと思った。
「あ、うん!特には決めてなくて…」
星宮がそう答えた時だった。
「星、こっち来いや」
聞き慣れた声。
爆豪だった。
気付けば爆豪は星宮の左手首を掴んでいた。
「あ、え、あ、轟くん!大丈夫そう!」
星宮は慌てて振り返る。
俺はその様子を見ながら、
「ああ」
とだけ返した。
別に止める理由もなかった。
二人の背中が人混みへ消えていく。
俺もそのまま飯田達の方へ向かった。
その時は本当に、それだけだった。
文化祭を回りながらも、
時々その光景を思い出した。
爆豪。
星宮。
あいつらの組み合わせは珍しい。
いや、最近はそうでもないか。
職場体験の頃から会話は増えていた。
インターン後はさらに増えた。
だが。
それでも何か引っ掛かる。
爆豪は基本的に
誰かを迎えに行くような奴じゃない。
誰かを探すこともない。
待つことはあっても、自分から動くことは少ない。
まして文化祭だ。
興味があるとも思えなかった。
「……」
考えてみる。
だが答えは出ない。
結局、
「別にいいか」
そう結論付けた。
本人にしか分からない理由もあるだろう。
文化祭が終わり、寮へ戻った。
風呂へ入り、部屋着へ着替える。
共有スペースでは打ち上げが始まっていた。
いつものように上鳴達が騒ぎ。
芦戸が笑い。
飯田が仕切っている。
その光景を見ていると、不思議と安心した。
戦いじゃない。
訓練でもない。
ただの学生らしい時間だった。
ソファへ腰を下ろしながら、
何となく全体を眺める。
星宮はお茶子達と話していた。
文化祭の話をしているらしい。
楽しそうだった。
ステージの時もそうだったが、
今日はずっと機嫌が良さそうだ。
それだけ文化祭が楽しかったのだろう。
その姿を見ていると、俺も少し嬉しくなった。
時間が経つ。
話し声が続く。
だが途中で気付いた。
星宮の反応が少しずつ鈍くなっている。
笑ってはいる。
返事もしている。
だが眠そうだ。
文化祭中、ずっと個性を使い続けていた。
疲れて当然だった。
その時だった。
星宮の持っていたコップが傾く。
「あ」
そう思った瞬間。
一番近くにいた爆豪が手を伸ばしていた。
「おい。寝るなら部屋で寝ろや」
低い声。
星宮は目を瞬かせる。
「あ…爆豪くんありがとう…!」
慌ててコップを持ち直す。
その光景を見て、俺は少し考えた。
爆豪は面倒見が良いタイプじゃない。
困っている奴がいても放置する。
助けるとしても必要最低限だ。
だが。
星宮に対しては違う。
文化祭でもそうだった。
迎えに行った。
隣にいた。
気に掛けていた。
今もそうだ。
・・・
その時、不意に全部繋がった。
「ああ」
思わず小さく呟く。
文化祭で連れて行った理由。
やたら近くにいた理由。
最近よく視線を向けていた理由。
全部同じだった。
爆豪は分かりやすい男じゃない。
だが。
行動は意外と正直だ。
「……なるほど」
だから文化祭で星宮を連れて行ったのか。
俺は納得した。
視線の先では、爆豪が面倒そうに
そっぽを向いていた。
星宮は何も気付いていない。
たぶん爆豪も、自分がどれだけ
分かりやすいか気付いていない。
その様子を見ながら、
俺は静かにジュースを口に運んだ。
文化祭は終わった。
だが、何かは少しずつ動いているのかもしれない。
そんな事を、ぼんやりと思った。
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