前へ進む人たち

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文化祭を終えて数日後。

エリちゃんを雄英で預かることになったと
緑谷くんから聞いた私は、少し安心していた。

巻き戻しという危険度の高い個性を
持っている以上、抹消の個性を持つ
相澤先生が近くにいるのは理にかなっている。

「まだ多分未婚なのに子育てかー」

何気なくそう言った瞬間、

「……」

相澤先生にものすごく睨まれた。

「すみません」

思わず即座に謝る。

なぜか分からないけれど、
今のは怒られるやつだったらしい。

そしてある日の共有スペース。

ソファでは上鳴くんと瀬呂くんが
ゲームをしていて、キッチンでは
八百万さんがお茶を淹れている。

窓の外はすっかり冬の気配だ。

誰かが窓を閉めた音がして、
冷たい空気が遮断される。

「へっちょい!」

突然、盛大なくしゃみが響いた。

振り向くと、
常闇くんが腕を組んだまま立っている。

「風邪?大丈夫?」

麗日ちゃんが心配そうに声を掛ける。

すると常闇くんは、

「いや……!息災!我が粘膜が仕事をしたまで」

と胸を張った。

「なにそれ」

麗日ちゃんが即座に首を傾げる。

私も意味が分からなかった。

十一月下旬。

風邪を引いてもおかしくない季節だ。

私も最近は少し厚手の服を選ぶようになっていた。

今日はゆるいVネックのベージュニットに
スキニーパンツだ。

そんな中、上鳴くんがニヤニヤしながら言う。

「噂されてんじゃね!?ファンできたんじゃね!?
ヤオヨロズー!みたいな」

「茶化さないでくださいまし、有難いことです!」

八百万さんは即座に反論する。

けれど少しだけ嬉しそうだった。

「常闇くんはとっくにおるんちゃう?
だってあのホークスのとこ
インターンいっとったんやし」

麗日ちゃんがカップを手にしながら続ける。

ホークス。

今もっとも勢いのある若手ヒーロー。

その名前を聞いて私も常闇くんを見る。

確かに注目されない方がおかしい。

「いいやないだろうな。あそこは速すぎるから」

常闇くんは低く呟いた。

私は意味がよく分からず首を傾げる。

その時だった。

ガチャ。

玄関の扉が開く音が響く。

「あ!!きたぞみんな、お出迎えだ!!」

飯田くんの声が飛ぶ。

何事だろう。

皆で玄関へ向かう。

すると。

「煌めく眼でロックオン!」

「猫の手手助けやって来る!」

「どこからともなくやってくる。」

「キュートにキュートにスティンガー!」

そして、

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」

完璧なポーズと共に名乗りが決まった。

「あ!」

思わず声が出る。

プッシーキャッツだった。

「プッシーキャッツ!お久し振りです!」

緑谷くんが真っ先に駆け寄る。

林間合宿以来の再会だった。

皆私服姿だ。

活動休止中だと聞いていたから、
こうして元気そうな姿を見るだけで嬉しくなる。

その時。

虎さんが爆豪くんの前に立った。

「あん時ゃ守りきってやれずすまなんだ」

林間合宿の誘拐事件。

今でも忘れられない出来事だ。

深く頭を下げる虎さんに対して、

「ほじくり返すんじゃねェ」

爆豪くんはぶっきらぼうに返した。

昔なら怒鳴り散らしていそうなのに。

少しだけ大人になったのかもしれない。

そんなことを思った。

「しかしまたなんで雄英に?」

尾白くんが尋ねる。

「復帰のご挨拶に来たのよ」

マンダレイさんが答えた。

復帰。

その言葉に皆が反応する。

「ラグドール、戻ったんですか!?
個性を奪われての活動見合わせだったんじゃ……」

緑谷くんが驚く。

「戻ってないよ!アチキは事務所で
3人をサポートしていくの!OLキャッツ!」

ラグドールさんは明るく答えた。

けれどその笑顔の奥に、
色々なものを乗り越えた強さがある気がした。

「……では、何故このタイミングで復帰を?」

八百万さんが尋ねる。

「今度発表されるんだけど、
ヒーロービルボードチャートJP下半期、
私達411位だったんだ」

マンダレイさんが答える。

私は思わず息を呑んだ。

ヒーロービルボードチャート。

支持率や実績などを総合したランキング。

ヒーローを目指す以上、知らない者はいない。

「前回は32位でした!」

ラグドールさんが胸を張る。

「なるほど急落したからか!ファイトっス!!」

切島くんが励ますように拳を握る。

だが。

「違うにゃん!」

ラグドールさんは即座に否定した。

「全く活動してなかったにもかかわらず
3桁ってどゆこと!!」

「支持率の項目が我々突出していた」

虎さんが続ける。

「待ってくれてる人が居る」

ピクシーボブさんが静かに言った。

「立ち止まってなんかいられにゃい!」

ラグドールさんが笑う。

その言葉に私は胸が熱くなった。

活動していなくても。

戦えなくなっても。

待ってくれる人がいる。

応援してくれる人がいる。

それはきっと、とても凄いことだ。

強いから支持されるだけじゃない。

誰かに希望を与えたから、待っていてもらえる。

それこそヒーローなのかもしれない。

「かっこいい!」

気付けば声が出ていた。

皆も同じだったらしい。

共有スペースはすっかり
明るい空気に包まれていた。

前向きで。

力強くて。

何度転んでも立ち上がる。

そんな姿が眩しかった。

そして来週。

ヒーロービルボードチャートJP下半期が発表される。

オールマイト引退後、初めてのランキング。

どんな時代になるのだろう。

どんなヒーローが人々を導くのだろう。

私はまだ答えを知らない。

けれど。

何かが少しずつ動き始めていることだけは、
確かに感じていた。





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