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それから数日後。

ヒーロービルボードチャートJP
下半期の発表日がやって来た。

寮の共有スペースにあるテレビの前には、
勉強や自主練習が終わって
手の空いていた数名が自然と集まっている。

私もソファの端へ腰掛けていた。

両手で包むように持っているのは、
大きめのマグカップ。

中身は温かいココアだ。

ふわりと立ち上る甘い香りに
少しだけ気持ちが落ち着く。

隣では透ちゃんが私の肩に寄り掛かりながら
ポッキーを食べていた。

「寒くなってきたねー」

「ねー」

そんな他愛もない会話をしながら、
テレビへ視線を向ける。

今回のランキング発表は、いつもとは少し違った。

10位から1位までを順番に発表し、
その場に集まったヒーロー達がコメントを残していく。

実はこうした形式は初めてだ。

オールマイトという絶対的な存在がいた時代。

人々は順位よりも、
その背中だけを見ていれば良かった。

けれど今は違う。

平和の象徴はもういない。

だからこそ今、ヒーロー達は
自分の言葉で社会へ語り掛けようとしている。

そんな風に思えた。

10位。

画面に映し出されたのはリューキュウだった。

お茶子ちゃんや梅雨ちゃん、
それに波動先輩のインターン先でもある。

私は思わず背筋を伸ばす。

死穢八斎會の事件を知っているからだ。

リューキュウのコメントは意外なものだった。

順位の話でも功績の話でもない。

救えた命より、救えなかった命。

そのことを語っていた。

穏やかな声なのに胸が重くなる。

自然と脳裏に浮かんだのはサーナイトアイだった。

死穢八斎會との戦い。

あの事件で亡くなったヒーロー。

インターンで関わった
緑谷くん達の顔まで思い出してしまう。

「……」

知らず知らずのうちに
マグカップを握る手に力が入った。

その後も順位は次々発表されていく。

9位。

8位。

7位。

6位。

画面越しにも会場の空気が
変わっていくのが分かった。

そして5位。

発表されたのはミルコ。

「わ、かっこいい……!」

思わず声が漏れる。

圧倒的な自信。

強さを隠さない堂々とした立ち姿。

同じ女性として純粋に憧れた。

4位はエッジショット。

忍者のような風貌で静かに
立っているだけなのに存在感がある。

そして。

3位。

「ベストジーニスト」

名前が呼ばれた瞬間だった。

「3位だ!」

思わず立ち上がりそうになる。

「おめでとうございますって送っとこ!」

慌ててスマホを取り出す。

「綺羅ちゃん嬉しそうね」

いつの間にか隣へ来ていた梅雨ちゃんが言った。

「うん!復帰はまだみたいだけど
体調は良くなってきてるらしいし、
無理せず完治して欲しいな!」

自然と笑顔になる。

インターンでお世話になった時間を思い出していた。

厳しかった。

大変だった。

でも確実に成長出来た。

だから余計に嬉しい。

そんな私の様子を、少し離れた場所にいた
爆豪くんが見ていたことには気付かなかった。

続いて2位。

ウィングヒーロー・ホークス。

「若い……」

思わず呟く。

まだ二十代前半。

それなのに日本トップクラス。

常闇くんが言っていた「速すぎる」という
言葉の意味が少しだけ分かる気がした。

そして。

残るは一人。

No.1。

新たな時代の象徴。

呼ばれた名前は、

エンデヴァーだった。

共有スペースが少し静かになる。

予想していた人も多かっただろう。

私も驚きはしなかった。

けれど。

オールマイトの後継者。

そう呼ぶにはまだ何かが足りない気がした。

それはきっと私だけじゃない。

テレビ越しにもそんな空気が伝わってくる。

順位発表が終わり、
ヒーロー達のコメントが続いていく。

その時だった。

突然。

「それ聞いて誰が喜びます?」

ホークスが口を開いた。

「えっ」

思わず透ちゃんと顔を見合わせる。

会場もざわついている。

ホークスは司会者からマイクを奪い、
そのまま高く舞い上がった。

そして。

容赦なく現実を突き付ける。

支持率。

成果。

社会が求めているもの。

耳が痛いほど正論だった。

けれど。

だからこそ空気が張り詰める。

「俺は以上です。
さァお次どうぞ、支持率俺以下No.1」

挑発するようにマイクを差し出す。

その姿に思わず苦笑してしまった。

「すごい人だなあ……」

自由過ぎる。

でも何故か嫌な感じはしない。

その後。

エンデヴァーがゆっくり口を開いた。

「若輩にこうも煽られた以上多くは語らん…
俺を見ていてくれ」

短い言葉だった。

けれど。

そこには確かな重みがあった。

炎を纏いながら立つ姿は、
以前テレビで見た時より少しだけ違って見える。

怒りではなく。

覚悟のようなものを感じた。

発表が終わる。

テレビ番組が切り替わると同時に、
共有スペースは一気に騒がしくなった。

「ホークスやべーだろ!」

「ヒヤヒヤしたわ!」

「でも言ってる事は分かるよな」

皆が思い思いに話し始める。

その中で。

緑谷くんだけは少し様子が違った。

視線の先にいるのは轟くん。

エンデヴァーがNo.1になった。

それは轟くんにとって、
きっと私達には想像出来ない意味を持つ。

「轟くん……」

緑谷くんが声を掛ける。

轟くんは少しだけ顔を上げた。

「大丈夫だ」

短い返事。

それだけだった。

けれど緑谷くんもそれ以上は聞かなかった。

きっと。

聞かない優しさもあるのだと思う。

私は少し離れた場所から、
その様子を見つめていた。

轟くんの家庭のことを
詳しく知っている訳じゃない。

でも。

簡単な言葉で片付けられるもの
ではないことだけは分かる。

だから私は何も言わない。

ただ静かにココアを一口飲んだ。

少しぬるくなった甘い味が広がる。

オールマイトがいなくなった世界。

新しいNo.1。

変わっていく時代。

その中で私達もまた、少しずつ前へ進んでいる。

そんな気がした。







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