=

✳︎




本日の演習授業の場所は運動場γ。

工業地帯を模したこの訓練場は、
無機質な建造物が密集し、
配管や鉄骨が複雑に張り巡らされている。

「ワクワクするねー」

透ちゃんの軽やかな声が響く。

本格的に冬へ向かい始めたこの時期でも、
透ちゃんは今日も変わらず“透明なまま”だった。

「葉隠、寒くないの?」

響香ちゃんの問いかけは、
誰もが一度は口にしたくなる素朴な疑問だった。

「めっちゃ寒ーい!!」

即答だった。

個性ゆえとはいえ、
手袋と靴だけで冬を過ごすには厳しすぎる。

透ちゃんの声には楽しげな響きと同時に、
本気で寒がっている気配も混じっていた。

「敵対しない時は服着たら?」

「駄目だよ!私のアイデンティティなんだから!」

「確かに透ちゃんしかいないもんね」

思わず笑ってしまう。

透ちゃんらしい。

周囲を見渡せば、
季節の移り変わりは一目瞭然だった。

百ちゃんのコスチュームには
防寒用のマントが追加され、
三奈ちゃんもファーベストを羽織っている。

夏の頃とは少しずつ装いが変わり、
皆のコスチュームも冬仕様へ移行していた。

そんな中。

「かっちゃんも変えてる!」

緑谷くんが目を輝かせて声を上げた。

視線の先には爆豪くん。

今日も不機嫌そうな顔でこちらへ歩いてきている。

「あーー!?文句あんなら
面と向かって言えやクソナードが!」

いつも通りだった。

むしろ安心するくらい。

けれど緑谷くんは全く怯まない。

「そのスーツ・・・防寒発熱機能付き?
汗腺が武器のかっちゃんにとって、
とても理にかなった変更で素晴らしいと思…」

「ほめてんじゃねー!!!」

爆豪くんの怒鳴り声が響いた。

緑谷くんは本当に懲りないなぁと思う。

でも、そんな緑谷くん自身も以前より
サポートアイテムが増えていて、
見た目からしてヒーローらしくなっていた。

皆少しずつ前へ進んでいる。

そう感じる。

私はというと、もともと
コスチュームの布面積が多いし、
光粒子主体だから大きな装備変更はない。

だから少しだけ羨ましかった。

冬限定仕様とか、ちょっと格好いい。

そんなことを考えていると、
視界の向こうから人影が現れた。

1−Bだ。

林間合宿以来、こうして大勢で
向かい合うのは久しぶりだった。

「おいおい、まーずいぶんと、
弛んだ空気じゃないか。僕らをなめているのかい」

先頭を歩く物間くんが声を張る。

相変わらずだ。

第一声から喧嘩腰である。

「お!来たなァ!!
なめてねーよ!ワクワクしてんだ!!」

切島くんが真っ向から返す。

まるで挑発が効いていない。

むしろ楽しそうだった。

「フフ…そうかい、でも残念。
波は今、確実に僕らに来ているんだよ。
さァA組!!今日こそシロクロつけようか!?」

今日も今日とて物間くんは絶好調だった。

「見てよこのアンケート!
文化祭でとったんだけどさァーア!
A組ライブとB組超ハイクオリティ演劇、
どちらが良かったか!見える!?
二票差で僕らの勝利だったんだよねぇ!!」

そう言って紙を突き出してくる。

本当かなぁ。

少し怪しい。

「マジかよ、見てねーから何とも言えねー!!」

切島くんは素直にショックを受けていた。

騙されやすそうで少し心配になる。

「入学時から続く君たちの悪目立ちの状況が、
変わりつつあるのさ!そして今日!!AvsB!!
初めて合同戦闘訓練!!僕らがキュ!!」

「黙れ」

低い声が割り込んだ。

次の瞬間。

捕縛布が一瞬で物間くんの首へ絡みつく。

「あぐっ」

本当に一瞬だった。

拳藤さんが止めるより早い。

さすがプロだなと思う。

その隣にはブラドキング先生が立っていた。

「今回特別参加者がいます」

その言葉に皆の視線が集まる。

「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」

相澤先生がため息混じりに付け加えた。

「特別参加者!?」

「倒すっ」

「女の子?」

「一緒に頑張ろうぜー!!」

好き勝手な反応が飛び交う。

そして先生たちの後ろから現れた姿を見て、
私は思わず目を見開いた。

見覚えがある。

体育祭で見た普通科の生徒。

「ヒーロー科編入を希望している、
普通科C組心操人使くんだ」

心操くんだった。

体育祭で緑谷くんと戦った時のことを思い出す。

強烈な個性。

そして、どこか悔しそうな表情。

今日はその適性を見るための場なのだろう。

自然と空気が引き締まった。

「一言挨拶を」

相澤先生に促され、心操くんが前へ出る。

「何名かは既に体育祭で接したけれど、
拳を交えたら友だちとか…
そんなスポーツマンシップ掲げられるような、
気持ちの良い人間じゃありません。
俺はもう何十歩も出遅れてる。
悪いけど、必死です。
立派なヒーローになって、
俺の”個性”を人の為に使いたい。
この場の皆が、越えるべき壁です。
馴れ合うつもりは、ありません」

真っ直ぐな言葉だった。

だからこそ自然と拍手が起きたのかもしれない。

「ギラついてる」

お茶子ちゃんが言う。

「引き締まる」

常闇くんも頷いた。

「初期ろき君を見ているようだぜ」

瀬呂くんの言葉に、

「そうか?」

轟くんは首を傾げる。

(初期ろき君……)

なんだろう、その雑な呼び方。

思わず吹き出しそうになった。

轟くん本人は全く気にしていないらしい。

「じゃ、早速やりましょうかね。戦闘訓練」

ブラドキング先生が手を叩く。

そのままルール説明が始まった。

A組とB組による対抗戦。

四人一組。

心操くんはA組とB組それぞれ一回ずつ参加する。

ヴィラングループの確保を想定した訓練。

牢獄役として設置された檻には、
なぜか根津校長の顔と共に
『いらっしゃい』の文字が描かれていた。

(なんで……?)

妙に気になってしまう。

「四人つかまえた方…
ハンデってそういうことか?」

爆豪くんが確認する。

「ああ…慣れないメンバーを入れる事、
そして五人チームでも四人捕えられたら
負けってことにする」

「お荷物抱えて戦えってか、クソだな」

爆豪くんらしい発言だった。

「ひでー言い方やめなよ」

上鳴くんが呆れたように言う。

けれど、

「いいよ、事実だし」

心操くん本人は気にしていなかった。

「徳の高さで何歩も先行かれてるよ!!」

上鳴くんが叫ぶ。

そのやり取りに思わず笑ってしまう。

そして。

「じゃ」

「クジな」

相澤先生とブラドキング先生が、
それぞれ箱を持ち上げた。

いよいよチーム分けだ。

誰と組むことになるのだろう。

そう思いながら、私は目の前の箱を見つめた。







✳︎



..