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相澤先生の授業の時とは違い、
ヒーロー基礎学の授業はどこか
明るい空気のまま終わった。

グラウンド・βから校舎へ戻り、
更衣室でヒーローコスチュームを脱ぐ。
戦闘の余韻がまだ体に残っている。

ボディスーツを脱ぎながら、
思わず小さく息を吐いた。

(思ったより動いたなあ……)

けれど不思議と疲れは嫌なものではない。
むしろ、胸の奥がまだ少しだけ高鳴っていた。

制服に着替え終えると、
女子たちと一緒に教室へ戻る。

ガラリ、と扉を開けると――

教室の空気はすでに賑やかだった。

「なあなあ!
親睦も兼ねて訓練の反省会しねえか!?」

切島くんの大きな声が教室に響く。

その言葉に、あちこちから声が上がった。

「いいねそれ!」

「やろうぜ!」

「さっきの戦闘めっちゃ面白かったし!」

自然と皆が席を立ち、
教室のあちこちに小さな輪が出来ていく。

そんな中――

一人だけ、静かに帰り支度をしている人がいた。

爆豪くんだった。

緑谷くんとの戦闘のあとから、
ほとんど口を開いていない。

黙ったまま鞄を持ち、教室の出口へ向かう。

「待てよ爆豪!反省会しようぜ!」

切島くんが声をかける。

「そうだ!おめー 凄かったな!」

上鳴くんも乗っかる。

けれど。

爆豪くんは振り向かない。

無言のまま歩き続ける。

そして――

ガラッ。

教室の扉を開ける。

そのまま外へ出ていく。

次の瞬間。

バタン、と扉が閉まった。

まるで、境界線を引くような閉め方だった。

教室の空気が少しだけ静かになる。

「ダメだったかー」

切島くんが頭をかいた。

少し残念そうだ。

(……大丈夫かな)

ふと、爆豪くんの背中を思い出す。

さっきの戦闘。

緑谷くんとの様子。

胸の奥に少しだけ引っかかるものがあった。

けれど。

「綺羅ちゃん!」

葉隠ちゃんの声がすぐ横から聞こえた。

振り向く。

制服だけがそこに立っている。

「さっきの戦闘めっちゃキラキラしてたよ!」

「ほんと!?ありがと!」

思わず笑う。

そのまま自然に話の輪に入った。

教室はすぐにまた賑やかになる。

戦闘の話。

個性の話。

さっきの作戦の話。

皆それぞれが興奮気味に語り合っていた。

そんな時だった。

教室の扉が、静かに開く。

スーッ、と。

そこに立っていたのは――

包帯ぐるぐるの緑谷くんだった。

腕も、体も、顔も。

ほとんど包帯で覆われている。

「おお緑谷来た!!!お疲れ!!
いや何喋ってっか分かんなかったけど
アツかったぜ!おめー!」

切島くんが勢いよく駆け寄る。

「へ!?」

緑谷くんが目を丸くする。

そのまま後ずさる。

「よく避けたよー!」

芦戸ちゃんも笑いながら近づく。

「1戦目であんなのやられたから
俺らも力入っちまったぜ!」

上鳴くんも集まってきた。

あっという間に緑谷くんの周りに人が集まる。

「俺ぁ切島鋭児郎!
今 皆んなで訓練の反省会してたんだ!」

「私 芦戸三奈!よく避けたよー!」

「蛙吸梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺 瀬呂範太!」

次々と自己紹介が飛んでいく。

緑谷くんは完全に輪の中心に立たされていた。

目をぱちぱちさせている。

(あ、慣れてないんだ)

どこかおろおろしている。

そんな様子が少しだけ可笑しくて、
思わず笑いそうになる。

その時。

緑谷くんが、はっとしたように教室を見渡した。

「あれ……」

爆豪くんを探している。

「デクくん 怪我治してもらえなかったの!?」

麗日ちゃんが心配そうに声をかける。

「麗日さん これは僕の体力的なアレで…」

緑谷くんが気まずそうに答えた。

「アレ!?」

麗日ちゃんが首を傾げる。

その横で、緑谷くんはもう一度教室を見回す。

「それよりもかっちゃんは……」

爆豪くんの姿を探していた。

その後ろから、ひょこっと顔を出す。

麗日ちゃんの肩越しに。

「爆豪くんなら、今さっき教室出てったから、
まだ追い付けると思うよ!」

そう声をかける。

緑谷くんがこちらを見る。

その瞬間。

一瞬だけ目が止まった。

(……?)

何かを思い出したような顔だった。

(あれ?)

でもすぐにその表情は消える。

「あ、ありがとう!」

ぺこっと頭を下げる。

そしてそのまま――

廊下へ飛び出していった。

バタバタと足音が遠ざかっていく。

しばらくして。

教室はまた賑やかな空気に戻った。

その輪の中で、自然と笑いながら会話を続ける。

初めてのヒーロー基礎学。

緊張もあったけれど。

戦えて。

皆と話せて。

手応えのある一日だった。

胸の奥に、確かな実感が残っていた。








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