オールマイトが雄英高校の教師に就任した――。
そのニュースは、綺羅が思っていた以上に
世間を揺らしていた。
朝、校門へ向かう坂の途中から、
すでに異様な熱気がある。
テレビカメラ。
マイク。
腕章をつけた取材陣。
制服の袖に入った二本線――
雄英ヒーロー科の証を見つけるたび、声が飛んだ。
「雄英ヒーロー科ですよね!?」
「昨日の授業、どんなことを!?」
「オールマイト先生はどんな方ですか!」
一斉にマイクが向けられる。
「えっ、ちょ、ちょっと待って……!」
思わず一歩引く。
(すごい……)
ここまでとは思っていなかった。
だが、すぐに思い出す。
生徒手帳の注意事項。
雄英の授業内容や訓練の詳細は、
基本的に外部へ話してはいけない。
ヒーローが日常的にいる学校だからこその
配慮だろう。
「すみません!
授業のことは話せない決まりなんです」
出来るだけ丁寧に断りながら、門の方へ進む。
質問はまだ飛んでくる。
それでも足は止めない。
ようやく雄英の敷地に入る。
ふぅ、と息を吐いた。
(すごかった……)
背後では、まだ取材陣のざわめきが続いている。
その中で、ひとりの記者がこちらを見つめていた。
「……あれ?」
何か思い出しかけたような顔。
綺羅の髪色、顔立ち、雰囲気。
どこかで見たことがあるような――
だが、その時にはもう背中を向けて
校舎へ入っていた。
――
教室に入ると、そこでも話題は同じだった。
「マジでカメラの数やばくなかった?」
「めっちゃ質問されたんだけど!」
インタビューの話で持ちきりだ。
その空気に、思わず笑みがこぼれる。
「おはよー」
教室へ入りながら声をかける。
「おはよー!」
すぐに芦戸ちゃんが元気に返してくれた。
「おはよ」
「おはよう」
あちこちから挨拶が返ってくる。
席へ向かいながら、少しだけ胸が温かくなる。
(なんか……)
もうすっかりA組に馴染んできた気がする。
席に着こうとしたときだった。
斜め前から声がかかる。
「綺羅もインタビュー受けた?」
耳郎ちゃんだった。
「うん、なんとか交わしてきた!」
椅子に座りながら笑う。
「さすがオールマイトだよねえ。
あんなに人集まるんだね」
朝の様子を思い出して、少し肩をすくめた。
その時。
「なーなー」
横から上鳴くんが顔を出す。
「ん?」
上鳴くんがスマホを差し出してきた。
「もしかしてこれ星宮だよな!?」
画面を見る。
そこに映っていたのは――
昔のCM。
ヒーローパッケージのふりかけ。
小さな女の子が笑っている。
隣には、もっと小さな子。
(あっ)
思わず声が出る。
「わあー懐かしい!」
画面を覗き込む。
「これ私が8歳とかのCMだよ?よく分かったね!」
自分でも少し驚く。
一瞬しか映っていないのに。
「ビンゴ!」
上鳴くんが得意げに胸を張る。
「なんか見覚えあったんだよなー!
当てた俺すごくね!?」
その後ろで。
耳郎ちゃんが小さく呟いた。
「チャラい……」
「え!星宮CM出てたん?」
後ろの席から瀬呂くんが身を乗り出してくる。
上鳴くんはスマホの画面を見せながら言った。
「そー!髪色とか目の色一緒だし、
ファッション雑誌とか色々やってたよな?」
もう一度、綺羅を見る。
「両親がそっち系だったからね!
楽しかったよー!」
当時を思い出して、自然と笑顔になる。
スタジオのライト。
カメラの前でポーズを取ったこと。
隣で同じように笑っていた彩空。
懐かしい記憶がふっと蘇る。
「そん時から勝ち組なのになんでヒーローに、」
瀬呂くんが言いかけた、その瞬間だった。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴る。
反射のように、教室の空気が変わった。
さっきまで騒いでいたクラスメイトたちが、
一斉に席へ戻る。
綺羅も机に向き直る。
ガラッ。
教室の扉が開いた。
ゆるく猫背のシルエット。
眠そうな目。
無造作に伸びた髪。
担任の――
相澤先生が教室に入ってきた。
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