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やがてチャイムが鳴り、
間を置かずに教室の扉が開く。
寝袋を引きずるようにして、
相澤消太が入ってきた。

昨日と同じ、眠そうな目。
だが、その視線はしっかりと
教室全体を見渡している。

「昨日の戦闘訓練 お疲れ。
Vと成績見させてもらった。爆豪。
お前もう餓鬼みてェなマネするな
能力あるんだから」

淡々とした口調だった。

教室の視線が一斉に窓際の前方へ集まる。

爆豪くんは腕を組んだまま、
机に肘をつき、少しだけ顔を上げた。

「……分かってる」

低く、短い返事。

それ以上は何も言わない。

(やっぱり怒られてる……)

綺羅は少しだけ苦笑した。

昨日の戦闘訓練を思い出す。
爆発。
壁を吹き飛ばすほどの威力。

確かに、あれは少しやり過ぎだった。

けれど――

(でも強かったなぁ……)

思い出すと、少しワクワクしてしまう自分もいる。

その間にも相澤先生の視線は動いていた。

そして、教室のさらに奥へ。

「で。緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。
個性の制御… いつまでも出来ないから仕方ない。
じゃ、通させねえぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。
それさえクリアすれば やれる事は多い。
焦れよ 緑谷」

静かな言葉だった。

けれど、その中に少しだけ
期待のようなものが混ざっている気がした。

呼ばれた緑谷くんは、背筋をぴんと伸ばす。

「っはい!」

教室に響くほど大きな返事。

その声に、思わず綺羅も小さく笑う。

(元気だなあ)

昨日あんな怪我をしていたのに。

包帯もまだ残っているのに。

それでも前を向くところが、やっぱりすごい。

「さて 本題だ…急で悪いが 今日は君らに…」

そこで言葉が途切れる。

教室の空気が、ぴんと張りつめた。

「「「「(何だ…!?また臨時テスト!?)」」」」

誰も声には出さない。
けれど、顔には思いっきり書いてある。

(またテストとかやだなあ……)

綺羅も内心で身構えた。

相澤先生なら、本当にやりかねない。

しかし。

次の言葉は予想外だった。

「学級委員長を決めてもらう。」

一瞬の沈黙。

そして次の瞬間。

「「「「学校っぽいの来たー!!!」」」」

教室が爆発した。

笑い声。
歓声。
机を叩く音。

入学式もガイダンスも飛ばされた
ヒーロー科にとって、
それは初めて訪れた“普通の学校イベント”だった。

綺羅も思わず笑う。

(ほんとだ、学校っぽい!)

ヒーロー科の学級委員長。

ただの雑務係ではない。

クラスをまとめ、判断し、前に立つ。

それはヒーローにとって必要な資質でもある。

だからだろう。

「俺やる!」

「私も!」

「僕も立候補!」

次々と手が上がる。

教室が一気に騒がしくなった。

綺羅も自然と手を挙げていた。

「はい!」

少し背筋を伸ばして。

「私もやってみたい!」

言った瞬間、さらに声が重なる。

「俺も!」
「私も!」
「やりたい!」

(やっぱり……)

ヒーロー志望ばっかり。

自己主張が強い。

そんな空気の中で。

「静粛にしたまえ!!」

ぴしっ、と声が響いた。

飯田天哉くんだった。

背筋をまっすぐ伸ばし、 
その姿はまるで本当に委員長みたいだった。

「多をけん引する責任重大な仕事だぞ…!
やりたい者がやれるモノではないだろう!!
周囲からの信頼あってこそ 務まる聖務…!
民主主義に則り 真のリーダーを
皆んなで決めるというのなら…
ここは投票案で決めるべき議案!!!」

教室が一瞬ぽかんとする。

熱のこもった演説だった。

……ただし。

その飯田くんの右手は、しっかりと挙がっている。

ぷるぷる震えながら。

「そびえ立ってんじゃねーか!!
何故発案した!!」

切島くんのツッコミが飛ぶ。

教室に笑いが広がった。

「日も浅いのに信頼もクソもないわ 飯田ちゃん。」

梅雨ちゃんが冷静に言う。

「そんなん皆んな自分に入れらあ!」

上鳴くんが困ったように言う。

それでも飯田くんは真剣だった。

「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが
真に相応しい人間という事にならないか!?
どうでしょうか先生!!」

視線が教卓へ向く。

相澤先生は――

「時間内に決まりゃ何でも良いよ。」

それだけ言って、寝袋に潜り込んだ。

(早っ)

綺羅は思わず目を瞬かせた。

結局、飯田くんの提案が採用される。

投票制。

黒板に立候補者の名前が書かれていく。

「おーい俺も書いて!」
「私も!」

どんどん増えていく名前。

やがて紙が配られた。

名前を書く。

集められる。

そして――

黒板に票が書き出されていく。

教室の視線が集中する。

結果は、意外なものだった。

最後に残った名前。

――緑谷出久。

一瞬、教室が静まり返る。

そして。

ざわ……。

小さなどよめきが広がった。

綺羅も、少し驚いた。

(え、緑谷くん?)

でも。

少し考える。

入試のとき。
あの巨大ロボの前で、迷わず飛び出した姿。

昨日の戦闘訓練。
ボロボロになりながらも勝った姿。

(ああ……)

なんとなく、納得した。

(うん)

この結果は――

ちょっと、分かる気がした。








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