バスはゆっくりと減速し、やがて停車した。
エンジンの振動が止まり、扉が開く。
外に立っていたのは、白いスーツのヒーローだった。
宇宙服を思わせる丸みを帯びた装備。
丸いヘルメット。
全身を覆う白い装甲。
その姿はどこか宇宙飛行士のようであり、
同時に静かな威圧感を持っていた。
穏やかな仕草で手を振る。
プロヒーロー、13号だ。
「スペースヒーロー13号だ!
災害救助でめざましい活躍をしている、
紳士的なヒーロー!」
緑谷くんが一歩前に出て、弾む声で紹介する。
テレビで見たことはあったけれど、
こうして間近で見ると意外と背が高い。
白いスーツの奥から、
落ち着いた気配が漂っていた。
「わー! 私好きなの! 13号!!」
麗日ちゃんが素直に声を上げる。
すると13号は、ヘルメット越しでも分かるほど
少し照れたように肩をすくめた。
「さあ、早速中に入りましょう!」
導かれるまま、施設の中へ入る。
扉が閉まった瞬間だった。
視界いっぱいに広がった光景に、
思わず息が止まる。
巨大なドーム。
天井には人工の空が広がり、
青空の光が降り注いでいる。
その下には街並み。
海。
岩場。
崩れた建物。
炎に包まれた区画。
まるで映画のセットのように、
様々な災害現場が区画ごとに再現されていた。
水難事故。
土砂災害。
火災。
倒壊現場。
すべてが本物のように作られている。
「ええ。ウソの災害や事故ルーム、略してUSJ。
ここは、救助のために作られた訓練施設です」
(本当にUSJだった…!)
思わず心の中で呟く。
某有名テーマパークと同じ名前。
その事実に、周囲の空気が一気にざわついた。
「すげー!」
「テーマパークみたいじゃん!」
興奮した声があちこちから上がる。
その少し後ろで。
「13号、オールマイトは?
ここで待ち合わせるはずだが……」
相澤先生が小さな声で確認していた。
「それが、通勤時に制限ギリギリまで
活動してしまったみたいで…
今は保健室で休んでいます」
「不合理の極みだな……仕方ない、始めるか」
ため息混じりの声。
相澤先生は呆れたように頭を掻いた。
その様子を見届けて、13号が前へ進み出る。
白いスーツがゆっくりと動く。
「えー、始める前に、お小言を一つ二つ……
三つ……四つ……五つ……六つ……」
「(増える……)」
誰かが小さく呟いた。
周囲から小さな笑いが漏れる。
だが13号の声は、穏やかなままだった。
「皆さん、ご存知だとは思いますが、
僕の個性はブラックホールです」
その言葉に緑谷くんが前のめりになる。
「その個性で、どんな災害からも
人を救い上げるんですよねっ」
麗日ちゃんも大きく頷く。
「ええ……。
しかし同時に、簡単に人を殺せる力でもあります。
超人社会は、個性の使用を資格制にし、
厳しく規制することで、成り立っているように
見えます。ですが忘れないでください。
皆さん一人ひとりが、容易に人を殺せる力を
持っているということを」
その声は静かだった。
けれど言葉の重さは、胸の奥へと沈んでいく。
個性。
それはヒーローの力。
同時に、人を傷つける力でもある。
「この授業では、心機一転。
人命のために、個性をどう活用するかを
学んでいきましょう。君たちの力は、
人を傷つけるためにあるのではない。
救けるためにあるのだと、心得てください」
言い終えた瞬間。
一拍の静寂。
そして――
「ブラボー!」
誰かが声を上げた。
続いて大きな拍手が広がる。
その空気に、思わず笑みがこぼれる。
(いい話だったなあ)
その時だった。
「よし、んじゃまずは――」
相澤先生が口を開く。
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
バチバチ、と。
空間のどこかで嫌な音が弾ける。
反射的に顔を上げる。
視界の端。
黒い靄が、ゆっくりと渦を巻いていた。
空間そのものが歪むように、
黒い霧が広がっていく。
「ひとかたまりになって動くな!!」
相澤先生の怒号が、ドーム内に響き渡った。
「13号! 生徒を守れ!!」
空気が一瞬で変わる。
訓練ではない。
その緊張感で、すぐに分かった。
「何だアリャ……?また始まってるパターン?」
切島くんが黒い霧を見下ろしながら言う。
だがその瞬間、
「動くな! あれは――ヴィランだ!!」
相澤先生の声が鋭く響いた。
胸の奥が、ぎゅっと締まる。
初めての敵襲。
目の前に現れた、はっきりとした悪意。
命を救うための場所に現れた、命を脅かす存在。
ヒーローが日常的に向き合っているものが、
今、目の前にある。
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