平和の象徴

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瓦礫の山が静まり返っていた。

さっきまで乱雑に響いていた怒号も、
足音も、すべて止まっている。
崩れた壁、転がった鉄骨、
床に伏したヴィランたち。

焦げた匂いと埃が混じる空気の中で、
爆豪くんがゆっくりと手を下ろした。

「これで全部か。弱えな」

最後の一人が床に沈み、動かなくなる。

爆破の煙がまだ薄く漂っていた。

狭い室内で何人ものヴィランが襲いかかってきた。
倒壊しかけた建物、足場の悪い瓦礫、視界の悪さ。

条件としては最悪だったはずだ。

それでも――三人とも、かすり傷一つない。

「結構数いたね!」

そう言いながら肩にかかった髪を払う。
さっきまで動き続けていた体が、
ようやく止まった。

胸が上下する。
呼吸を整えながら、辺りを見渡す。

瓦礫の向こう、崩れた窓から
外の光が差し込んでいた。

まだ戦いは終わっていない。

「っし!早く皆んなを助けに行こうぜ!
俺らがここにいる事からして、
皆んなUSJ内にいるだろうし!
攻撃手段が少ねえ奴らが心配だ!」

額の汗を拭いながら、切島くんが言う。

焦りではない。
仲間を思う、真っ直ぐな焦燥。

その言葉に、自然と頷きかけた瞬間だった。

「行きてぇなら2人で行け。
俺はあのワープゲートをぶっ殺す!」

爆豪くんが、吐き捨てるように言う。

「はあ!?」

切島くんが目を剥いた。

瓦礫の隙間から差し込む光の中で、
爆豪くんの赤い瞳がぎらつく。

「ぶっ殺すって…」

思わず苦笑いと言葉が漏れる。
あまりにも物騒な言い方だ。

「この期に及んでそんなガキみてぇな…、
それにアイツに攻撃は…」

切島くんが言いかけた瞬間、

「うっせ!」

爆豪くんが乱暴に遮る。

「敵の出入り口だぞ。いざって時
逃げ出さねぇよう元を締めとくんだよ!
靄の対策もねぇわけじゃねえ…」

そう言っている、その背後――

瓦礫の影から、ひとりのヴィランが飛び出した。

ナイフ。

銀色の刃が振り下ろされる。

瞬間、

ドン!!

爆破。

爆風が狭い室内に叩きつけられた。

ナイフを持ったヴィランの身体が、
そのまま床に叩きつけられる。
爆豪は振り向きもせず、手のひらを下ろしていた。

「つーか、俺らに充てられたのが
こんな三下なら大概大丈夫だろ」

瓦礫の隙間から埃が落ちる。

その言葉を聞いて、思わず目を瞬かせた。

(皆んなのこと評価してるんだ…)

正直、少し意外だった。

爆豪くんの印象は

“全員弱え”

“俺が一番”

そういうタイプだと思っていた。

でも今の言葉は違う。

仲間の実力を――
ちゃんと計算に入れている。

「つーかお前そんな冷静な感じだっけ?おめぇ…」

切島くんも同じことを思ったのか、首を傾げる。

爆豪くんが振り返る。

「俺はいつでも冷静だクソ髪やろう!!」

怒鳴る。

その瞬間、

「あぁそっちだ」

切島くんが安心したように言う。

するとまた爆豪くんがキレる。

それでやっと、いつもの空気に戻る。

「じゃあな、行っちまえ」

そう言って爆豪くんは先に歩き出そうとした。

瓦礫を踏み越え、外へ向かう。

その背中に、

「待て待て!」

切島くんが慌てて手を伸ばす。

「ダチを信じる…!男らしいぜ爆豪!
お前に乗った!」

爆豪くんは立ち止まった。

そして切島くんが振り向く。

「星宮はどうする!?」

問いかけられ、崩れた壁の向こうを見た。

USJの中央。

仲間たちが戦っている場所。

そして――

黒い靄のヴィラン。

オールマイトを狙っていた、あの敵。

胸の奥が、静かに熱くなる。

「私も行くよ!」

迷いはなかった。

「皆んなも強いはずだもん!」

肩の髪を払う。

光が、ふっと揺れた。

「ヒーロー志望なんだから!」

その言葉に、

切島くんが大きく笑う。

「よっしゃ!」

拳を握る。

「じゃあ決まりだ!中央広場行くぞ!!」

三人は瓦礫を蹴って走り出す。

崩れた建物の出口へ。

そしてその先――

USJの中心。

まだ終わっていない戦いへ。








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