⭐︎

✳︎





瓦礫の建物を抜けた瞬間、空気が変わった。

焦げた匂い。
地面を震わせる衝撃。
遠くで響く爆音。

爆豪くんを先頭に、切島くんと並んで走る。
視界の先に、徐々に広場の景色が見えてきた。

中央広場の噴水。

その前に――

金色の巨体。

「……オールマイト!」

思わず息を呑む。

平和の象徴がそこにいた。
救援に来てくれていた。

けれど――

様子がおかしい。

巨大な異形のヴィランに
ヘッドロックを決めている。
だがその周囲の地面が黒く歪み、
靄のような空間から
ヴィランの顔が突き出していた。

ワープゲート。

そこから現れたヴィランたちが、
オールマイトの両腕を掴んでいる。

「やべえ!オールマイトが!」

切島くんが叫ぶ。

その声と同時だった。

爆豪くんが地面を蹴る。

ドン!!

爆音と共に前へ飛び出した。

ほぼ同時に、別方向からも声が響く。

「オールマイトぉ!!」

噴水の反対側。

緑谷くんが叫びながら走り出していた。
その背後には、
梅雨ちゃんと峰田くんの姿も見える。

だがその進路の先に――

黒い靄のヴィラン。

黒い霧のような体が、道を塞ぐように広がった。

次の瞬間、

「どっけ!邪魔だ!!デク!!」

爆豪くんの怒号。

直後、

BOM!!

大きな爆発音が広場に響いた。

爆豪くんの爆破が黒い靄のヴィランを叩きつける。
そのまま地面へ押さえ込む。

靄の中心にある装備――首元の部分を掴んでいた。

(そこなら触れられる…!)

霧そのものではなく、装備を押さえている。

爆豪くんの判断の速さに一瞬驚く。

その時だった。

空気が急激に冷える。

キン、と凍る音。

「てめぇらがオールマイト殺しを
実行する役とだけ聞いた」

低い声。

振り向くと、氷が地面を這うように広がっていた。

轟くんだ。

その氷が、オールマイトと戦っていた怪物のような
ヴィランの半身を凍らせている。

轟くんが静かに並ぶ。

一方、

「おらぁ!!」

切島くんが拳を振り上げて突っ込む。

その先に立っていたのは――

異様な男だった。

痩せすぎた身体。
無造作に伸びた灰色の髪。

そして何より目を引くのは――

全身にまとわりつく“手”。

人の手の形をしたものが、首や肩、腕、顔にまで
張り付くように取り付けられている。

まるで誰かに掴まれているような、不気味な姿。

灰色の髪の男が、ゆっくりと身体を揺らす。

切島くんの拳。

それを、ほんのわずかな動きで避けた。

そして――

ゆっくりと手を伸ばした。

(危ない――!)

背筋に嫌な感覚が走る。

「離れて!」

光が弾けた。

スターライト。

光の弾丸が男の手を弾く。

パチン!

弾かれた手がわずかに逸れる。

その瞬間、さらに光が弾ける。

フラッシュ。

白い閃光が広場を照らした。

男の視界が一瞬白く潰れる。

その隙に、切島くんの肩を押す。

「下がって!」

身体を押し戻し、距離を取る。

男の手が空を切る。

「くっそ!!いいとこねー!」

切島くんが悔しそうに声を上げる。

でも一歩遅れていたら危なかった。

そんな直感が、まだ胸の奥に残っていた。

その横で、

「スカしてんじゃねえぞモヤモブが!」

爆豪くんが叫ぶ。

黒い靄のヴィランを地面に押さえつけたまま、
苛立たしそうに笑っている。

「平和の象徴はてめぇら如きに殺れねぇよ」

轟くんもその隣に立つ。

静かな声。

でもその言葉には確信があった。

視線を巡らせる。

「緑谷くん大丈夫!?」

思わず声をかける。

さっき飛び出していた緑谷くんが、
少し離れた位置で立ち止まっていた。

目が潤んでいる。

「かっちゃん…!!皆んな…!!」

震える声。

助けが来たことに、涙が滲んでいた。

広場の中央。

ヒーロー志望たちが並ぶ。

その前で――

灰色の髪の男が、ゆっくりとこちらを見ていた。








✳︎



..