中央広場の噴水前。
瓦礫と水しぶきの中で、
灰色の髪の男が立っていた。
その顔は――
無数の“手”に覆われている。
首元、肩、腕、そして顔。
まるで誰かに掴まれ続けているような、
不気味な装飾。
そして、その視線は――
まっすぐこちらを捉えていた。
「へぇ…」
男が小さく声を漏らす。
少し首を傾ける。
その仕草は妙にゆっくりしていて、
余裕すら感じさせた。
「流石雄英」
さらに言葉を続ける。
「眩しいね」
そう言いながら、男は首筋をポリポリと掻いた。
その動きは落ち着き払っていて、
まるで今の状況が危機でも
何でもないかのようだった。
(……この人)
倒壊エリアで戦ったヴィランたちとは、
まるで違う。
空気が違う。
怖いとか、強いとか――
そういう単純なものではない。
何か、もっと根本的に“異質”。
思わず身体に力が入る。
真剣に身構える。
男は周囲を見回した。
「脳無に…それに黒霧まで…
出入り口を押さえられた…こりゃあピンチだ…」
妙に落ち着いた声だった。
その横で、
「このウッカリヤローめ!やっぱ思った通りだ!」
爆豪くんが叫ぶ。
「モヤ状のワープゲートになれる箇所は
限られている!そのモヤゲートで実態部分を
覆ってたんだろ!?そうだろ!?
全身モヤの物理無効人生なら
危ないっつー発想は出ねえもんなあ!!」
爆豪くんは満足そうに言い放つ。
自分の推測が当たったことが嬉しいらしい。
「ぬぅっ…」
黒い靄のヴィランは、爆豪くんに
押さえ込まれたまま身動きが取れない。
「っと 動くな!!“怪しい動きをした”と
俺が判断したらすぐ爆破する!!」
「ヒーローらしからぬ言動…」
切島くんが思わずツッコむ。
灰色の髪の男は、そのやり取りを見ながら
ぽつりと呟いた。
「攻略された上に全員ほぼ無傷…
凄いなあ最近の子どもは…
恥ずかしくなってくるぜ敵連合…!」
そして視線を向ける。
オールマイトに押さえられている、
あの怪物のようなヴィランへ。
「脳無、爆発小僧をやっつけろ。
出入り口の奪還だ」
その指示と同時だった。
怪物の身体が動く。
「身体が割れてるのに…動いてる…!?」
緑谷くんが驚いた声を上げる。
「皆 下がれ!!なんだ!?
ショック吸収の個性じゃないのか!?」
オールマイトの声が響く。
すぐに腕が広がり、皆を後ろへ下がらせる。
灰色の髪の男は肩をすくめた。
「別にそれだけとは言ってないだろう
これは超再生だな」
まるでおもちゃの説明でもするように続ける。
「脳無はお前の100%にも
耐えられるよう改造された
超高性能サイドバック人間さ」
その瞬間。
怪物の拳が動いた。
ドォン!!
凄まじい衝撃。
爆風が広場を叩きつける。
思わず足に力を入れて踏ん張る。
風圧で身体が持っていかれそうになる。
少し離れたところで、
緑谷くんが尻餅をついていた。
「かっちゃん!!!かっちゃん!!?」
必死な声。
その隣に――
爆豪くんが尻餅ついていた。
「避っ避けたの!?凄い…!」
緑谷くんが目を丸くする。
「違えよ 黙れカス」
爆豪くんが吐き捨てる。
でも――
(違う)
さっきの瞬間。
爆豪くんが動いたわけじゃない。
光の速さに慣れている目には分かった。
オールマイトが動いた。
爆豪くんを、庇った。
「ゴホッ…ゲホッ…!
……加減を知らんのか…」
オールマイトが咽せる。
その様子を見て、灰色の髪の男が言った。
「仲間を助ける為さ仕方ないだろ?
さっきだってホラそこの赤い髪と光る奴と…
あーーーーー…地味な奴。あいつらが俺に
思いっきり殴りかかろうとしたぜ?」
男はゆっくりと笑う。
「他が為に振るう暴力は美談になるんだ
そうだろ?ヒーロー?」
その声が徐々に熱を帯びていく。
「俺はな オールマイト!怒ってるんだ!
同じ暴力が ヒーローと敵でカテゴライズされ
善し悪しが決まる この世の中に!!」
指の隙間から覗く目が、ぎらりと光る。
「何が平和の象徴!!
所詮抑圧の為の暴力装置だお前は!
暴力は暴力しか生まないのだと
お前を殺す事で世に知らしめるのさ!」
広場に沈黙が落ちた。
その空気を、オールマイトの声が破る。
「めちゃくちゃだな」
静かだった。
「そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの
自分が楽しみたいだけだろ。嘘吐きめ」
灰色の髪の男が一瞬止まる。
そして、
「バレるの 早…」
ニヤリと笑った。
その時だった。
「3対6だ」
轟くんがオールマイトの横に並ぶ。
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!」
緑谷くんも立つ。
「とんでもねえ奴らだが俺らで
オールマイトのサポートとすりゃ…撃退出来る!」
切島くんも隣へ。
自然と身体が前に出そうになる。
その瞬間、
「ダメだ!!逃げなさい!!」
オールマイトの声が響いた。
皆を隣に並ばせない。
「……さっきのは俺がサポート入らなきゃ
やばかったでしょう」
轟くんは引かない。
「オールマイト 血…
それに時間だってないはずじゃ…ぁ……」
緑谷くんの言葉に、思わず引っかかる。
(時間…?)
そんな制限あったっけ。
疑問が頭をよぎる。
「それはそれだ!轟少年!!ありがとな!!
しかし大丈夫!!プロの本気を見ていなさい!!」
オールマイトは一歩も退かない。
灰色の髪の男が肩を回した。
「脳無、黒霧やれ。俺は子どもをあしらう
クリアして帰ろう!」
そう言って――
こちらへ歩き出した。
「おい来てる!やるっきゃねえって!!」
皆が身構える。
その瞬間。
ドォン!!
オールマイトの拳が、空気を爆発させた。
衝撃波が広場を揺らす。
灰色の髪の男の足が止まる。
「ショック吸収って…
さっき自分で言ってたじゃんか」
呆れた声。
だがオールマイトは笑う。
「そうだな!」
そして次の瞬間――
拳。
衝撃。
連撃。
圧倒的な力が叩きつけられる。
「無効ではなく 吸収ならば!!
限度があるじゃないか!?」
拳が続く。
「私対策!?
私の100%を耐えるなら!!
さらに上からねじふせよう!!」
広場が震える。
「ヒーローとは常にピンチを
ぶち壊していくもの!」
そして最後の一撃。
「敵よ こんな言葉を知ってるか!!?」
拳が振り抜かれる。
「Plus!!Ultra!!!!」
怪物の身体が宙へ吹き飛ぶ。
そして――
USJの外へ、叩き出された。
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