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騒動が収まったあと、
USJの広場には重たい空気が残っていた。

倒れた瓦礫。
崩れた地面。
そして、さっきまで戦っていた痕跡。

飯田くんが救援を呼んでくれたおかげで、
雄英の講師であるプロヒーローたちが駆けつけ、
USJ襲撃はなんとか収められた。

けれど――

主犯らしき灰色の髪の男と、
黒い靄のヴィランは逃げてしまった。

オールマイトの手によって、
怪物のようなヴィランは捕縛されたが、
その様子は奇妙だった。

暴れるわけでもない。
抵抗するわけでもない。

名の通り、脳の機能が人間とは違うのだろうか。

無反応のまま、静かに運ばれていく。

その光景を、なんとも言えない気持ちで見送る。

やがてパトカーのサイレンが近づき、
警察が到着した。

出入り口の前に、A組の生徒たちが集められる。

疲れ切った空気の中、
スーツ姿の刑事が人数を数えていた。

「16…17…18……両足重傷の彼を除いて……
ほぼ全員無事か。
とりあえず 生徒らは教室に戻ってもらおう。
すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」

刑事はA組を見回し、感心したように言う。

その時、梅雨ちゃんと峰田くんが歩み寄った。

「刑事さん。相澤先生は…」

二人の声にははっきりと心配が滲んでいる。

そういえば、ボロボロになっていた
相澤先生を二人で運んでいた。

警察はすぐに救急隊に連絡を取り、
状態を確認する。

そして戻ってきた報告に、
周囲の空気が一瞬重くなった。

「……両腕粉砕骨折、顔面骨折、
幸い脳系の損傷は見受けられないが、
眼窩底骨が粉々になってしまってる為、
眼に何かしらの後遺症が残る可能性がある…
だそうだ…」

思わず息が詰まる。

かなりの大怪我だった。

胸の奥が痛くなる。

あの人数のヴィランの中に、
一人で飛び込んでいった背中が思い出された。

警察はさらに続ける。

「13号の方は背中から上腕にかけての
裂傷が酷いが 命に別状はなし。
オールマイトも同じく命に別状なし。
彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分。
処置可能とのことで保健室へ。」

「デクくん…!」

「緑谷くんも!!」

麗日ちゃんと飯田くんが前に出る。

警察は頷いた。

「緑谷…ああ、彼は保健室で間に合うそうだ。
私も保健室の方に用がある。三茶!後 頼んだぞ」

そう言ってその刑事は去っていく。

代わりに前に出てきたのは――

体は人間なのに、顔は猫の警察官だった。

思わず目を瞬く。

不覚にも(可愛い…)と思ってしまった。

その時だった。

「綺羅ちゃんどこにいたの?心配したんだよ…!」

芦戸ちゃんが駆け寄ってきた。

目が潤んでいる。

そのまま腕にしがみつかれた。

「爆豪くんと切島くんと同じ倒壊エリアだったよ。
皆んな無事で良かったあ」

そう言いながら、
芦戸ちゃんの肩をぽんぽんとさする。

「本当だよぉ……」

芦戸ちゃんはまだ涙目だった。

その後、皆でバスに乗って雄英の校舎へ戻った。

事情聴取を受け、警察や先生たちに
それぞれの状況を説明する。

長い時間が過ぎたあと、ようやく帰宅が許された。

帰りは送迎付きだった。

バスの窓から、夕方の街並みが流れていく。

今日一日が、頭の中で何度も繰り返される。

戦い。
ヴィラン。
オールマイトの拳。

そして――

あの男。

ふと、視線が重なった瞬間を思い出す。

灰色の髪。
全身にまとわりつく手。

そしてあの目。

「眩しいね」

その言葉が、ふと耳の奥で蘇る。

怖い、とは少し違う。

もっと、ぞわりとするような不気味さ。

窓の外を見ながら、小さく息を吐く。

(……ヒーローになるなら)

あの不気味さとも、
向き合っていかなければならない。

ヴィランと戦うということは、

きっと――
そういうことなのだと思った。









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