翌日は休講となり、翌々日。
朝の空気はどこかいつもより澄んでいた。
USJでの騒動があったとは思えないほど、
雄英の校舎は普段通りの朝を迎えている。
通学路を歩きながら、胸の奥にまだ
少し残っている緊張を感じていた。
ヴィラン。
あの得体の知れない空気。
そして、あの男の目。
「眩しいね」
ふと、その言葉が脳裏をかすめる。
けれど――
校門をくぐった瞬間、そんな重たい感覚は
すぐにかき消された。
「おはよー!」
元気な声で挨拶をしながら教室の扉を開けると、
いつものA組の朝の光景が広がる。
席につきながら、自然と教室を見渡す。
(あ、緑谷くん)
怪我をしていたはずの緑谷くんが、
もう普通に席に座っている。
腕にはまだ包帯が残っているものの、
顔色は思ったよりずっと元気そうだった。
(よかった)
小さく胸を撫で下ろしたところで、予鈴が鳴る。
するとすぐに、教卓の前へと一人の男子が立った。
飯田くんだ。
「皆んなーーー!!
朝のHRが始まる席につけーー!!」
教室に響く、やたらと真面目な号令。
しかし。
「ついてるよ。
ついてねーの おめーだけだ」
思わず笑いそうになるのをこらえた、
その時だった。
ガラッ。
教室の扉が開く。
「お早う」
その声が聞こえた瞬間。
「「「「相澤先生復帰早えええ!!!!」」」」
教室が一斉にどよめいた。
視線の先にいたのは、担任の相澤先生。
――ただし。
顔面から腕まで、ぐるぐるに巻かれた包帯。
もはや目が見えているのかすら分からない状態で、
ふらりと教室へ入ってくる。
(え、ちょっと待って)
思わず目を丸くした。
どう見ても、退院していい状態ではない。
「先生 無事だったのですね!!」
飯田くんが真っ直ぐな声で言う。
だが、その横で。
「無事言うんかなぁ アレ……」
麗日ちゃんが小さく困惑していた。
(それは本当にそう)
心の中で深く頷く。
けれど相澤先生は、
そんな生徒たちの反応など
一切気にする様子もなく、
いつもの調子で話し始めた。
「俺の安否はどうでも良い。
何よりまだ 戦いは終わってねぇ」
その一言で、教室の空気が一瞬で変わる。
「戦い?」
誰かが呟く。
「まさか…」
背筋が少しだけ伸びる。
「またヴィランがー!!?」
身構える生徒たち。
しかし。
相澤先生の次の言葉は、まったく違うものだった。
「雄英体育祭が迫ってる!」
一拍。
そして――
「「「「クソ学校っぽいの
来たあああああ!!!!」」」」
教室が爆発した。
椅子が揺れ、歓声が上がる。
その勢いに思わず笑ってしまう。
(体育祭……!)
胸の奥が一気に熱くなる。
「待って待って!ヴィランに侵入されたばっか
なのに大丈夫なんですか!?」
上鳴くんが手を挙げて聞く。
相澤先生は淡々と答えた。
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が
整っている事を示す…って考えらしい。
警備は例年の5倍に強化するそうだ。
何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。
ヴィラン如きで中止していい催しじゃねぇ」
その言葉に、教室の熱がさらに高まる。
「いや そこは中止しよう?」
峰田くんがぼそりと呟く。
それを聞いた緑谷くんが驚いたように振り返った。
「峰田くん 雄英体育祭 見た事ないの!?」
「あるに決まってんだろ。
そういうことじゃなくてよー……」
峰田くんは明らかに命の心配をしている
ようだった。
しかし相澤先生は、さらに続ける。
「ウチの体育祭は日本のビックイベントの1つ!
かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ
全国は熱狂した。
今は知っての通り規模も人口も縮小し、
形骸化した… そして日本において今、
“かつてのオリンピック”に代わるのが
雄英体育祭だ!!」
その言葉を補足するように、
八百万さんが優雅に口を開く。
「当然 全国のトップヒーローも観ますのよ。
スカウト目的でね!」
「資格習得後はプロ事務所に
サイドキック入りが定石だもんな」
上鳴くんがそう言いながら、
瀬呂くんと耳郎ちゃんを見る。
「そっから独立しそびれて
万年サイドキックってのも多いんだよね
上鳴あんたそーなりそう アホだし」
耳郎ちゃんの容赦ない一言。
「くっ!!」
上鳴くんは本気でダメージを受けていた。
(厳しい)
思わず苦笑する。
相澤先生は話を続けた。
「当然 名のあるヒーロー事務所に
入った方が経験値も話題性も高くなる。
時間は有限プロに見込まれれば
その場で将来が拓けるわけだ。
年に1回…計3回だけのチャンス
ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」
教室の熱気が、一気に上がる。
みんなの目が輝いている。
そして――
(雄英体育祭)
胸の奥がじんわり熱くなる。
テレビの中で見ていたあの舞台。
プロヒーローたちが観客席で見守り、
日本中が注目するあのイベント。
今年は――
(私が出るんだ)
トップヒーローに見てもらえる。
スカウトされるかもしれない。
そんな期待が胸いっぱいに広がる。
拳をぎゅっと握る。
(絶対、頑張ろう)
そう心の中で強く誓った。
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