春の風が頬を撫でる。
目の前には、巨大な校門。
雄英高校。
日本一のヒーロー育成機関。
胸が高鳴る。
「……よし」
私は小さく拳を握った。
今日ここで、未来が決まる。
ヒーローになるための第一歩。
――星宮綺羅は、雄英高校の門をくぐった。
⸻
胸の奥が、ずっとふわふわしている。
緊張、というよりは――高揚感。
夢に一歩近づいている実感が、
体の奥から湧き上がってくる。
(雄英だ……)
門をくぐる受験生は、みんなそれぞれ個性的だ。
大きな体格の子。
鋭い目つきの子。
自信に満ちた表情の子。
きっと皆、強い個性を持っている。
けれど、不思議と怖さはない。
むしろ――
(楽しみ)
どんな人がいるんだろう。
どんな個性が飛び交うんだろう。
ヒーローを目指す人たちが、
こんなに集まっている。
それだけで胸が躍る。
そして人の流れに混ざりながら、校舎へ向かう。
その時だった。
少し前を歩いていた緑色の髪の男の子が、
足をもつれさせた。
「うわっ——」
転びそうになった、その瞬間。
ふわり、と。
男の子の体が一瞬、宙に浮いた。
(え?)
驚いて目を向けると、
隣にいた茶色いボブの女の子が手を伸ばしている。
どうやら彼女の個性らしい。
浮いていた体は、すぐに地面へと戻った。
男の子は慌てて体勢を立て直す。
「す、すみません!!」
すると女の子は、ぱっと笑って言った。
「ごめんね勝手に!
でも転んじゃったら縁起悪いもんね!」
明るい声だった。
緊張した空気が、ふっと軽くなる。
男の子は何度も頭を下げている。
「い、いえ!ありがとうございます!」
(あの子、すごく慌ててる)
さっきから見ていると、
かなり緊張しているみたいだ。
肩がこわばっているし、動きもどこかぎこちない。
(雄英志望って、もっとこう……)
自信満々な人ばっかりかと思っていた。
だから、少し意外だった。
(いい人そう)
あの子も受験生かな。
なんだか、ちょっと話しやすそうな雰囲気だ。
そんなことを思いながら、
私は校舎の方へ視線を向ける。
大きな建物の入り口には、
すでに多くの受験生が向かっていた。
(説明会場、あっちかな)
足を進める。
雄英高校の敷地は想像以上に広い。
通路の先に見える建物は、
まるで巨大なスタジアムみたいだった。
(すごい……)
ここで試験が行われる。
そう思うだけで、胸がまた高鳴る。
(どんな試験なんだろう)
ヒーロー科の入試。
きっと普通の学校とは全然違う。
でも――
(大丈夫)
不安はなかった。
むしろ、早く始まってほしい。
自分の力を試してみたい。
そんな気持ちの方がずっと強い。
説明会場の扉をくぐると、
すでにたくさんの受験生が席に着いていた。
ざわざわとした空気の中。
前方のステージに、
ひときわ目立つ人物が立っている。
サングラスに、派手なジャケット。
そして――大きなマイク。
「HEY HEY HEY!!」
会場に響き渡る声。
「ようこそ雄英高校へ!!」
私は思わず目を瞬かせた。
(あ、あの人……)
テレビで見たことがある。
プロヒーロー。
試験官の一人。
――プレゼント・マイク。
その声は、会場の空気を一瞬で変えた。
胸の奥がまた高鳴る。
(いよいよだ)
ヒーローになるための第一歩。
雄英高校入試が――今、始まる。
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