巨大なモニターが点灯した瞬間、
演習場前の空気が一気に張りつめた。
さっきまでざわついていた会場が、
まるで誰かにスイッチを
押されたみたいに静まり返る。
受験生たちの視線が、一斉にモニターへと向いた。
私も思わず背筋を伸ばす。
(いよいよだ)
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
ヒーロー科入試。
ここからが本番。
そして――
「《今日は俺のライヴにようこそー!!!
エヴィヴァディセイヘイ!!!》」
ボイスヒーロー・プレゼント・マイクの
弾けるような声が、会場いっぱいに響き渡る。
その瞬間、空気が一気に明るく弾けた。
(うわ、すごい声量……)
さすがプロヒーロー。
マイク越しなのに、声が身体に直接響くみたいだ。
会場の空気が、一瞬で“イベント”みたいな
雰囲気に変わる。
「《入試要項通り!リスナーにはこの後!
10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!!
持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の
演習会場へ向かってくれよな!!O.K!?》」
モニターには、
市街地を模した演習場の映像が映し出されていた。
高い建物。
広い道路。
瓦礫が散らばる場所もある。
(本当に街みたい……)
訓練施設というより、
完全に戦闘フィールドだ。
(10分……)
短い。
でもその短時間でどれだけポイントを稼げるか。
ヒーロー科らしい試験だ。
「《演習場には仮想敵を三種・多数配置してあり
それぞれの攻略難易度に応じて
ポイントを設けてある!!各々なりの個性で
仮想敵を行動不能にし ポイントを稼ぐのが
君たちの目的だ!!もちろん他人への攻撃など
アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?》」
周りの受験生たちが、わずかにざわめく。
(仮想敵、三種類)
つまりロボットの種類ごとに点数が違う。
個性を使って、どれだけ効率よく倒せるか。
単純だけど――
(腕の差が出る)
私はモニターをじっと見つめた。
(面白そう)
胸の奥が、わくわくしている。
怖いというより、
早く始まってほしい。
「質問宜しいでしょうか!?」
突然、凛とした声が響いた。
「《OK!》」
キリッと挙手をした眼鏡をかけた真面目そうな
男の子は許可を貰うと、ハキハキと話し出す。
背筋がぴんと伸びていて、姿勢も完璧だ。
「プリントには4種のヴィランが
記載されております!
誤裁であれば日本最高峰たる雄英において
恥ずべき痴態!!我々受験者は規範となる
ヒーローのご指導を求めて
この場に座しているのです!!
ついでにそこの縮毛の君!」
眼鏡の男の子は後ろにいる、
さっき転びかけていた男の子に目線を向けた。
「先ほどからボソボソと…気が散る!!
物見遊山のつもりなら即刻 ここから去りたまえ!」
(うわ……)
会場の空気が一瞬、ぴんと張る。
注意された男の子はびくっと肩を揺らした。
(厳しい人だなぁ)
でも、言っていることは
間違ってないのかもしれない。
ヒーロー科の入試。
皆、本気でここに来ている。
「《オーケーオーケー 受験番号7111くん
ナイスなお便りサンキューな!
4種目のヴィランは0P!そいつは言わばお邪魔虫!
スーパーマリオブラザーズやった事あるか!?
あれのドッスンみたいなもんさ!各会場に1体!
所狭しと大暴れしているギミックよ!》」
(0ポイント……?)
私は少し首をかしげた。
倒しても意味がない敵。
むしろ――
(危険なだけ?)
試験を邪魔する存在。
「有難う御座います!失礼致しました!」
プレゼント・マイクの説明に納得した眼鏡をかけた
男の子は直角にお辞儀して着席した。
その動きも、どこか軍人みたいに
きっちりしている。
(真面目すぎるくらい真面目)
思わず少し笑いそうになる。
「《俺からは以上だ!
最後にリスナーへ
我が校 校訓をプレゼントしよう!》」
プレゼント・マイクの声が、
一段と大きくなる。
まるでライブのクライマックスみたいに。
「《かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!
真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者と!
“Plus Ultra”!!
それでは皆んな 良い受難を!!》」
“Plus Ultra”。
その言葉が、会場に響いた瞬間。
受験生たちの空気が変わった。
ざわっ、と。
会場が、どっとざわめいた。
(プルス・ウルトラ)
さらに向こうへ。
限界の、その先へ。
雄英の校訓。
(いい言葉)
胸の奥で、小さく火が灯る。
いよいよ始まる。
ヒーローになるための、最初の試験。
私は静かに息を吐いた。
(全力でいこう)
スターライト。
私の個性。
この光で――
未来へ進むための第一歩を、掴みにいく。
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