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昼休みになると、
教室の空気は一気に騒がしくなった。

ついさっきまで授業をしていたとは
思えないほどの熱気だ。
話題はもちろん――雄英体育祭。

机の間を縫うように人が集まり、
あちこちで声が上がっている。

その中心で、切島くんが勢いよく拳を握った。

「あんなことはあったけど…
なんだかんだテンション上がるなオイ!!
活躍して目立ちゃプロへのどでけえ
一歩を踏み出せる!」

その言葉に、
すぐ横の上鳴くんと瀬呂くんが肩を組む。

「「おお!」」

三人ともすでに体育祭モードだ。

(ほんと熱いなあ)

思わず笑いそうになる。

そんな男子たちの勢いを少し離れたところから
見ていた緑谷くんが、ぽつりと呟いた。

「皆んな凄いノリノリだ…」

その声にすぐ反応したのは、やっぱりこの人。

「君は違うのか?緑谷くん。
ヒーローになる為 在籍しているのだから
燃えるのは当然だろう!?」

飯田くんが腰をぐっと曲げ、
前のめりになりながら拳を握る。

その熱量は、もう体育祭本番みたいだった。

隣で見ていた梅雨ちゃんが、さらっと言う。

「飯田ちゃん 独特な燃え方ね。変」

あまりにもストレートな感想だった。

思わず口からこぼれる。

「梅雨ちゃん辛辣だなぁ」

自分でも笑ってしまう。

その時だった。

「デクくん 飯田くん…」

のっそりと近づいてきたのは麗日ちゃん。

しかし。

「頑張ろうね 体育祭」

そう言いながらにやりと笑っているのに――

(あれ?)

どこか違和感がある。

笑っているのに、表情が硬い。
顔の下にうっすら影が落ちているように見えた。

それに気づいた緑谷くんが、思わず声を上げる。

「顔がアレだよ麗日さん!!?」

それを聞いた耳郎ちゃんも首をかしげる。

「どうした?全然うららかじゃないよ麗日」

麗日ちゃんはそのまま少し笑っている。

でも、その目の奥には――

(本気だ)

そんな気配があった。

体育祭。

ヒーローを目指す者にとって、
人生を左右する舞台。

きっと、麗日ちゃんにも譲れない理由がある。

(皆んなそれぞれだよね)

そんなことを考えていると――

「綺羅ー!食堂行こー!」

明るい声が飛んできた。

芦戸ちゃんだ。

いつもの調子で手を振っている。

その後ろには葉隠ちゃんと梅雨ちゃん。

「行こ行こ!」

立ち上がると、四人で教室を出た。

廊下はもうすっかり昼休みの空気だ。

食堂へ向かう途中でも、
体育祭の話題があちこちから聞こえてくる。

そして席に着くなり、
芦戸ちゃんが身を乗り出した。

「体育祭かあ…!テレビ映るかな!映るよね!
毎年楽しみにして見てたもん!やったあ!」

その目は完全にキラキラしている。

「ワクワクね 三奈ちゃん」

梅雨ちゃんが落ち着いた声で言う。

(ほんとワクワクしてる)

そのテンションに、自然とこっちまで
楽しくなってくる。

トレイの上には生姜焼き定食。

箸を取りながら口を開く。

「毎年種目違うからね!
私達の時はどんなのかな?楽しみー!」

話しながら一口。

(美味しい)

食堂の生姜焼きはやっぱり人気の理由がある。

すると、梅雨ちゃんがこちらを見て言った。

「綺羅ちゃんはどの種目でも
良いところまで行けそうね」

その声はお世辞というより、
ただ事実を言っているだけのような
落ち着いた調子だった。

(そんな簡単じゃないけど)

それでも嬉しくて、笑顔になる。

「そうなるように頑張るよ!」

箸を持ったまま、つい身を乗り出す。

そして、ふと別のことが頭に浮かんだ。

「でも、B組とか他クラスの個性
見れるの楽しみだなー!」

戦うことももちろん楽しみだけど――

ヒーロー科の個性を見るのは、
それだけでワクワクする。

その言葉を聞いた葉隠ちゃんが笑った。

「緑谷くんみたいな事言うね!」

(あ)

確かに。

そう言われて思わず笑ってしまう。

「うん!ヒーロー大好き!」

即答だった。

ヒーローが好き。

ヒーローの個性が好き。

ヒーローの戦い方が好き。

だから――

雄英に来た。

四人で話しながら食べる昼ごはんは、
いつもよりずっと楽しかった。

体育祭の話題は尽きない。

笑い声と期待が混ざる昼休み。

その時間は、あっという間に過ぎていった。








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