放課後のチャイムが鳴り、午後の授業が終わる。
教室の空気がふっと緩んだ。
椅子を引く音。
鞄を閉める音。
友達同士で今日の話をしながら立ち上がる声。
いつものA組の放課後だった。
体育祭の話題はまだ尽きないが、
今日はもう帰り支度だ。
それぞれが鞄をまとめ始める。
しかし――
教室の扉を開けた瞬間。
空気が変わった。
麗日ちゃんが思わず声を上げる。
「うおおお……何ごとだあ!!!?」
廊下は、人、人、人。
他クラスの生徒たちが壁際から中央まで
ぎっしりと並び、まるで見世物でも見るかのように
こちらを覗き込んでいる。
(え……)
一瞬、状況が理解できなかった。
視線。
とにかく視線。
雄英の制服を着た生徒たちが、
A組を観察するように見ている。
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」
峰田くんが困惑した声を上げる。
その隣で爆豪くんが鼻で笑った。
「敵情視察だろザコ」
「みみみみみみみみ!!!!」
その一言に峰田くんは顔を真っ赤にして
震え上がる。
そして慌てて緑谷くんを見た。
「あれがニュートラルなの……」
緑谷くんは聞こえないように、
小さくフォローする。
「ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな
体育祭の前に見ときてえんだろ。
意味ねえからどけ モブ共」
爆豪くんの言葉は、
火種に油を注ぐには十分だった。
廊下の空気がざわつく。
「知らない人のこと
とりあえずモブっていうのやめなよ!!」
飯田くんが前に出る。
腕を振りながら抗議したその瞬間。
人だかりの奥から、落ち着いた低い声が聞こえた。
「どんなもんかと見に来たが ずいぶん偉そうだなぁ
ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
(ん?)
視線がそちらに向く。
「ああ!?」
爆豪くんが即座に反応する。
人ごみがゆっくり割れていく。
現れたのは、
紫色のふわふわした癖毛の
男子生徒だった。
目の下には濃い隈。
袖を見ると、赤い一本線。
――普通科。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。
普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから
入ったって奴けっこういるんだ 知ってた?」
その声は静かだった。
でも言葉は鋭い。
廊下の空気がじわりと冷える。
男子生徒は淡々と続けた。
「体育祭のリザルトによっちゃ
ヒーロー科編入も検討してくれるんだって
その逆もまた然りらしいよ………
敵情視察?少なくともおれは 調子乗ってっと
足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつーー
宣戦布告しに来たつもり」
(へえ)
思わず少し感心してしまう。
普通科。
つまり――
ヒーロー科を狙っている。
その覚悟で、ここに来ている。
「「「(この人も 大胆不敵だな!!」」」
緑谷くん、麗日ちゃん、切島くん、
上鳴くん、峰田くん。
何人かが同時に心の中で突っ込んでいるのが、
表情で分かった。
さらに別方向から声が飛ぶ。
「隣のB組のもんだけどよぅ!!
敵と戦ったっつうから話聞こうと
思ってたんだがよぅ!!
エラく調子づいちゃってんなオイ!!
本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
荒っぽい声。
(B組か)
視線が自然と爆豪くんへ集まる。
A組が“調子に乗っている”と見られている空気。
ちょっと居心地が悪い。
しかし。
当の本人は全く気にしていなかった。
人ごみを押しのけ、前へ進もうとする。
「待てコラ!どうしてくれんだ!おめーのせいで
ヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」
切島くんが慌てて引き止める。
爆豪くんは吐き捨てる。
「関係ねえよ………」
「はあーーーーー!!?」
「上に上がりゃ 関係ねえ」
その言葉は乱暴だった。
けれど。
(ああ)
思う。
この人は本当に、
上しか見ていない。
だから周りの評価なんて関係ない。
「くっ…!男らしいじゃねえか…!」
切島くんはもう完全に感動していた。
「いやいや!ああ言っても
ヘイト買う理由にはならねえだろ!」
上鳴くんはまだ焦っている。
その空気を見て、思わず口を開く。
「皆んな熱くてやる気満々だね!
煽るのは良くないけど、
体育祭負けなければ認めてくれるよ!」
そう言って、思わず笑顔になる。
本気で勝てばいい。
それだけだ。
すると、上鳴くんがこちらを見て、
ぽつりと言った。
「おお…眩しい…」
思わず首を傾げる。
(え、何で?)
けれど。
体育祭は、すぐそこまで来ている。
廊下には、まだ多くの視線が向けられていた。
――雄英体育祭。
その舞台に立つ前から、もう戦いは始まっていた。
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