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放課後。

授業が終わった校舎は、
昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
遠くのグラウンドから、
部活動の掛け声がかすかに聞こえる。

鞄を肩に掛けて昇降口へ向かいながら、
ふと窓の外に目を向けた。

(体育祭、もうすぐだなあ)

胸の奥が少し高鳴る。

雄英体育祭。
テレビで何度も見ていたあの舞台。

そのグラウンドに、今度は自分が立つ。

そんなことを考えていると――

視界の端で、何かが光った。

パキィン――

乾いた音とともに、グラウンドの一角に氷が走る。

思わず足を止める。

(あれ…)

窓から外を覗くと、
そこに立っていたのは一人の男子生徒だった。

白と赤の髪。

そして次の瞬間。

轟音とともに、
地面から巨大な氷柱が一気に立ち上がった。

氷が一直線に伸び、壁のように広がる。

(すご…)

思わず目を丸くする。

やっぱり――

(轟くんだ)

氷の個性。

昨日の戦闘訓練でも圧倒的だった。

そのまま昇降口を通り過ぎ、
自然とグラウンドへ足が向く。

轟くんは静かに立ち、もう一度手を前に出した。

瞬間。

地面から氷が弾けるように伸びる。

凍結の軌道が、まるで狙いを定めたように
一直線に走った。

(今の…)

技の精度が明らかに高い。

思わず声が出た。

「今の凄いね!」

轟くんが少しだけこちらを見る。

「轟くん」

近くまで歩み寄る。

「体育祭に向けてトレーニング?」

轟くんは氷を解かず、そのまま答えた。

「別に」

短い。

空気が少し冷える。

でも、あまり気にせず続ける。

「さっきの氷、めちゃくちゃ速かったよ!」

氷柱を指差す。

「前よりパワー上がってない?」

轟くんは一瞬こちらを見る。

そして淡々と言った。

「当たり前だ」

その声は、かなり冷たかった。

「体育祭は1位を取る」

一切の迷いがない声。

(やっぱり)

優勝候補と言われるだけある。

少し笑いながら言う。

「私も頑張るよ!」

しかし轟くんの表情は変わらない。

「楽しみだよね体育祭!」

その言葉に――

轟くんの視線が少しだけ鋭くなる。

「楽しむつもりはない」

空気が一瞬止まる。

「遊びじゃねえんだ」

その目は真っ直ぐだった。

「雄英にいるのも、体育祭も」

わずかに間が空く。

「全部、過程だ」

声は静かだった。

けれどそこには、強い決意があった。

「エンデヴァーを超えるヒーローになる」

その名前を聞いた瞬間、少しだけ驚く。

(お父さん…)

プロヒーロー、エンデヴァー。

轟くんの父親。

でも、轟くんの声には尊敬というより――

何か別の感情が混ざっているようだった。

「だから」

轟くんは続ける。

「氷だけで勝つ」

きっぱりと言い切る。

(氷だけ…?)

思わず首を傾げそうになる。

けれど、轟くんの表情を見ると
聞き返す空気ではなかった。

氷の壁の向こうで、夕日が光っている。

少しだけ沈黙が流れる。

でも、ふっと笑う。

「そっか!」

あっさり言う。

轟くんが少しだけ目を向けた。

「じゃあ体育祭で当たったら本気で行くね!」

拳を軽く握る。

「負けないから!」

その言葉に、轟くんは一瞬こちらを見る。

「そうか」

それだけだった。

(やっぱりクールだなあ)

少し苦笑する。

でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

鞄を持ち直す。

「じゃ、また明日ね轟くん!」

手を軽く振る。

そのまま昇降口へ歩き出す。

背中に夕日が当たる。

少し歩いてから、ふと振り返る。

轟くんはまだ同じ場所に立っていた。

氷の壁の前で、静かにこちらを見ている。

表情は変わらない。

けれど、さっきよりほんの少しだけ――

こちらを気にしているように見えた。

(体育祭)

胸の奥が少し熱くなる。

(楽しみだな)








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