A組の入場が終わると、
続いて他クラスの紹介が始まった。
B組。
普通科。
サポート科。
そして経営科。
それぞれの科がゲートから入場するたびに、
観客席から歓声が上がる。
雄英体育祭は、日本中が注目する大イベントだ。
スタジアムの空気は、まるでお祭りのように
熱を帯びていた。
その中で、ふと目に入った人物がいた。
(あ)
紫色のふわふわした髪。
目の下の濃い隈。
先日、廊下で宣戦布告してきた
普通科の男子生徒だった。
彼は周囲の生徒とは少し距離を取りながら、
静かにスタジアムを見渡している。
その視線が、一瞬だけこちらを向いた気がした。
(普通科でもヒーロー科に編入できるんだよね…)
体育祭の結果次第。
つまり――
この舞台は、誰にとっても人生を変える場所だ。
そんなことを考えていると、
会場中央から声が響いた。
「選手宣誓!!」
視線が一斉に中央へ向かう。
低い台の上に立っているのは、
派手な衣装の女性ヒーロー。
18禁ヒーロー・ミッドナイト。
妖艶な雰囲気を纏っているが、
公式行事らしく進行はきっちりしている。
「選手代表!1-A 爆豪勝己!!」
その名前が呼ばれた瞬間――
スタジアムがざわめいた。
(やっぱり…)
爆豪くんは当然と言わんばかりの様子で、
ポケットに手を突っ込んだまま歩き出す。
堂々とした足取り。
まるで舞台の中央に立つのが
当たり前のような歩き方だった。
「え〜〜 かっちゃんなの!?」
後ろで緑谷くんの声が上がる。
「…」
思わず振り返る。
切島くんが肩をすくめながら答えた。
「あいつ一応入試一位通過だからな」
「ヒーロー科の入試な。」
普通科側から聞こえてきた声に、
瀬呂くんが思わず体を縮める。
(まだ引きずってるんだ…)
廊下でのやり取り。
他科から見れば、A組は確かに目立ちすぎている。
そんな空気などまったく気にしていないように、
爆豪くんは台の上に立つ。
そして、ポケットに手を突っ込んだまま
口を開いた。
「せんせー」
一瞬、静寂。
何を言うのかと思えば――
「俺が一位になる」
スタジアムの空気が一瞬止まり、
次の瞬間どよめきが広がる。
(やっぱり言った)
思わず苦笑いがこぼれる。
「絶対やると思った!!」
後ろで切島くんが叫ぶ。
「何故品位を貶めるような事をするんだ!」
飯田くんが慌てて抗議するが、
爆豪くんは全く気にしていない。
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
その言葉が放たれた瞬間――
スタジアムの空気が爆発した。
観客席からどよめき。
他クラスから刺さるような視線。
(すごい宣誓だなあ…)
苦笑しながら思う。
でも、あれが爆豪くんだ。
迷いも遠慮もない。
そしてそれを言える実力もある。
ミッドナイト先生が一歩前に出て、
手をひらりと振る。
空気を切り替えるように言った。
「さーて それじゃあ、早速第一種目行きましょう!
いわゆる予選よ!毎年多くの者が
涙(ティアドリンク)を飲むわ!!
さて運命の第一種目!今年は……コレ!!」
スタジアム上空の巨大モニターに
文字が映し出される。
【障害物競走】
会場から歓声が上がる。
「計11クラスでの総当たりレースよ!
コースはこのスタジアムの外周約4km!
我が校は自由さが売り文句!
ウフフフ… コースさえ守れば
何をしたって構わないわ!
さあさあ 位置につきまくりなさい…!」
妖艶な声がスタジアムに響く。
(自由ってことは…)
何でもあり。
雄英らしいルールだ。
ゲート前にはすでに大勢の生徒が
集まり始めていた。
押し合い、ぶつかり合いながら、
少しでも有利な位置を取ろうとしている。
(早い者勝ちだ)
そう理解した瞬間、A組の空気も変わる。
互いに目を合わせ、静かに位置取りを調整する。
先頭に行きすぎれば、後ろから押し潰される。
後ろすぎれば、前に出られない。
結果――
自然と中団に位置取る形になった。
周囲には普通科、B組、サポート科の生徒たち。
緊張した空気が漂っている。
(すごい人数…)
スタートラインに並ぶ人数だけで圧倒される。
肩と肩がぶつかる。
熱気が渦巻く。
観客席の歓声が遠くに聞こえる。
その瞬間――
「《スターーート!!!!》」
爆音のような合図。
一斉に、全員が走り出した。
雄英体育祭。
その第一歩が、今始まった。
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