⭐︎⭐︎

✳︎






演習会場の巨大なシャッターの前に、
受験生たちが並んでいた。

さっきまでのざわめきは消え、
今は静かな緊張だけが場を満たしている。

誰もが前を見つめていた。

目の前のシャッター。

その向こうには、模擬市街地。

仮想敵。

そして――ヒーロー科への道。

(10分)

短い時間。

でも、この10分で全てが決まる。

私は軽く息を吐いた。

空気が少し冷たい。

心臓の鼓動が、いつもよりはっきり聞こえる。

けれど、不思議と怖さはない。

むしろ胸の奥にあるのは、
わくわくするような高揚感だった。

(いよいよだ)

スターライト。

私の個性。

この試験で、どこまで通用するのか。

それを確かめる瞬間。

受験生たちの間にも、静かな集中が広がっている。

拳を握る人。

足を軽く動かして準備している人。

今にも飛び出しそうな姿勢の人もいる。

(みんな本気だ)

さすが雄英志望。

空気が違う。

その時。

モニターが点灯した。

そこに映るのは、
派手なジャケットにサングラスの男。

ボイスヒーロー――
プレゼント・マイク。

受験生たちの視線が、一斉にモニターへ向く。

一瞬の静寂。

そして。

「《ハイ スタートー!》」

――え?

思わず目を瞬いた。

あまりにもあっさりした合図。

気合いの入ったカウントダウンも、
派手な宣言もない。

ただ、それだけ。

一瞬、場の空気が止まった。

「……?」

誰もが、ほんのわずかに戸惑った。

その一拍。

そのほんのわずかな遅れが――

次の瞬間、明確な差になった。

「うおっ!?」

「え、もう!?」

慌てて走り出す受験生たち。

シャッターが開き、演習場の道が現れる。

だが。

その瞬間にはもう、数人が飛び出していた。

(今!)

私は迷わなかった。

合図を聞いた瞬間、すでに足が動いていた。

地面を蹴る。

体が一気に前へ出る。

風が頬を打つ。

(いける!)

横目で見ると、
まだ動き出せていない受験生もいる。

さっきの合図があまりにも気が抜けていたからだ。

でも――

(スタートはスタート)

ヒーローは、状況に反応する。

合図の雰囲気なんて関係ない。

「――!」

私は人の波の先頭に近い位置で、
演習場へ飛び込んだ。

視界が一気に開ける。

そこには、広い模擬市街地。

ビルのような建物。

広い道路。

瓦礫の散らばる交差点。

そして――

ガシャン。

重たい機械音が響いた。

前方の道路で、金属の巨体が動く。

赤いセンサー。

分厚い装甲。

仮想敵。

ロボットヴィラン。

(いた)

胸の奥が、さらに高鳴る。

試験開始から、まだ数秒。

でも――

(もう戦える)

私は走りながら、腕を上げた。

指先に、光が集まる。

小さな粒子。

夜空の星のような光。

スターライト。

私の個性。

(いこう)

ロボットがこちらを向く。

センサーが赤く光る。

私は足を止めない。

むしろ加速する。

ヒーローになるための試験。

その最初の一撃。

光が、指先で弾けた。








✳︎



..