演習会場の巨大なシャッターの前に、
受験生たちが並んでいた。
さっきまでのざわめきは消え、
今は静かな緊張だけが場を満たしている。
誰もが前を見つめていた。
目の前のシャッター。
その向こうには、模擬市街地。
仮想敵。
そして――ヒーロー科への道。
(10分)
短い時間。
でも、この10分で全てが決まる。
私は軽く息を吐いた。
空気が少し冷たい。
心臓の鼓動が、いつもよりはっきり聞こえる。
けれど、不思議と怖さはない。
むしろ胸の奥にあるのは、
わくわくするような高揚感だった。
(いよいよだ)
スターライト。
私の個性。
この試験で、どこまで通用するのか。
それを確かめる瞬間。
受験生たちの間にも、静かな集中が広がっている。
拳を握る人。
足を軽く動かして準備している人。
今にも飛び出しそうな姿勢の人もいる。
(みんな本気だ)
さすが雄英志望。
空気が違う。
その時。
モニターが点灯した。
そこに映るのは、
派手なジャケットにサングラスの男。
ボイスヒーロー――
プレゼント・マイク。
受験生たちの視線が、一斉にモニターへ向く。
一瞬の静寂。
そして。
「《ハイ スタートー!》」
――え?
思わず目を瞬いた。
あまりにもあっさりした合図。
気合いの入ったカウントダウンも、
派手な宣言もない。
ただ、それだけ。
一瞬、場の空気が止まった。
「……?」
誰もが、ほんのわずかに戸惑った。
その一拍。
そのほんのわずかな遅れが――
次の瞬間、明確な差になった。
「うおっ!?」
「え、もう!?」
慌てて走り出す受験生たち。
シャッターが開き、演習場の道が現れる。
だが。
その瞬間にはもう、数人が飛び出していた。
(今!)
私は迷わなかった。
合図を聞いた瞬間、すでに足が動いていた。
地面を蹴る。
体が一気に前へ出る。
風が頬を打つ。
(いける!)
横目で見ると、
まだ動き出せていない受験生もいる。
さっきの合図があまりにも気が抜けていたからだ。
でも――
(スタートはスタート)
ヒーローは、状況に反応する。
合図の雰囲気なんて関係ない。
「――!」
私は人の波の先頭に近い位置で、
演習場へ飛び込んだ。
視界が一気に開ける。
そこには、広い模擬市街地。
ビルのような建物。
広い道路。
瓦礫の散らばる交差点。
そして――
ガシャン。
重たい機械音が響いた。
前方の道路で、金属の巨体が動く。
赤いセンサー。
分厚い装甲。
仮想敵。
ロボットヴィラン。
(いた)
胸の奥が、さらに高鳴る。
試験開始から、まだ数秒。
でも――
(もう戦える)
私は走りながら、腕を上げた。
指先に、光が集まる。
小さな粒子。
夜空の星のような光。
スターライト。
私の個性。
(いこう)
ロボットがこちらを向く。
センサーが赤く光る。
私は足を止めない。
むしろ加速する。
ヒーローになるための試験。
その最初の一撃。
光が、指先で弾けた。
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