午後の幕開け

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騎馬戦が終わり、
会場に昼休憩のアナウンスが流れると、
スタジアムを満たしていた熱気は
少しずつ落ち着き始めた。

ついさっきまで轟音や歓声が
渦巻いていたフィールドも、
今はどこか穏やかな空気に包まれている。
選手控えスペースでは、生徒たちが
水を飲んだり地面に座り込んだりしながら、
それぞれ騎馬戦の余韻を噛みしめていた。

綺羅も深く息を吐いた。

体はそこまで疲れていない。
だが、騎馬戦の十五分間は常に周囲を見て
判断し続けていたからか、頭の奥がじんわり熱い。

(すごかったなあ…)

爆豪くんの爆破。
瀬呂くんのテープ回収。
切島くんの安定した足運び。

四人の動きがぴたりと噛み合っていた瞬間を
思い出すと、胸の奥が少しだけ高鳴る。

「綺羅ー!」

聞き慣れた明るい声が飛んできた。

振り向くと、芦戸ちゃんが大きく手を振っている。
その隣には葉隠ちゃんと梅雨ちゃんの姿もあった。

「おつかれー!めっちゃ動いてたじゃん!」

「光の足場すごかったよー!」

葉隠ちゃんの弾んだ声が続く。

「おつかれ様。いい連携だったわ」

梅雨ちゃんがいつもの落ち着いた調子で言った。

「ありがとう!」

綺羅は笑顔で答える。

すると芦戸ちゃんが、
興奮した様子で身を乗り出した。

「てかさ!最後めっちゃカッコよかったよ!」

「爆豪くん飛びまくってたとこ!」

「あそこ凄かったよね!」

葉隠ちゃんも同意する。

「騎馬戦ってもっとゴチャゴチャすると
思ってたけど、あれ結構戦略戦だったわね」

梅雨ちゃんが腕を組みながら言う。

「確かに!」

綺羅も頷く。

「でも綺羅ちゃんの足場すごかったよ!」

「空中騎馬みたいだった!」

葉隠ちゃんが楽しそうに言う。

「テレビ絶対映ってるよ!」

芦戸ちゃんが続ける。

「えーほんと?」

思わず笑ってしまう。

観客席の多さを思い出す。

プロヒーロー、記者、一般観客。

体育祭はテレビ中継もされている。

(テレビ…)

毎年、家で見ていた雄英体育祭。

そのフィールドに自分が立っている。

改めて考えると、少し不思議な気持ちだった。

「よし!」

芦戸ちゃんが手をパンと叩く。

「とりあえずご飯行こ!お腹すいた!」

「私も」

梅雨ちゃんが即答する。

「食堂行こ食堂!」

葉隠ちゃんが元気よく言った。

綺羅も笑って頷く。

「うん!行こ!」

四人で並んで歩き出す。

スタジアムの通路を抜けると、
体育祭の熱気とはまた違う空気が広がっていた。

観客席ではカメラマンたちもまだあちこちで
機材を構えていて、時折フラッシュが光った。

「てかさ!」

芦戸ちゃんが歩きながら言う。

「次トーナメントでしょ!?めっちゃ楽しみ!」

「どんな組み合わせになるんだろうね!」

葉隠ちゃんが続ける。

「実力差がはっきり出るわね」

梅雨ちゃんが静かに言った。

「綺羅ちゃん絶対上いくよ!」

「いやいや!」

思わず笑う。

「まだ対戦相手も分かってないよ!」

それでも。

胸の奥では、少しだけ期待が膨らんでいた。

トーナメント。

ここからは――

一対一の勝負。

体育祭の空気が、次の戦いに向けて
ゆっくりと形を変えていくのを感じながら。

四人は食堂へ向かって歩いていった。







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