昼休憩に入り、食堂は早くも人で溢れ始めていた。
トレーを持った生徒たちが列を作り、
食堂の中は活気に満ちている。
その喧騒から少し離れた校舎の外廊下。
昼の光が白い床に反射していた。
緑谷は落ち着かない様子で立っていた。
向かいにいるのは、轟焦凍。
「あの…話って…何?早くしないと
食堂すごい混みそうだし…えと………」
緑谷が戸惑いながら言う。
騎馬戦が終わってから、突然呼び止められたのだ。
轟はしばらく黙ったまま緑谷を見ていた。
そして静かに口を開く。
「気圧された。自分の誓約を破っちまう程によ。
飯田も上鳴も八百万も
常闇も麗日も…感じてなかった。
最後の場面 あの場で俺だけが気圧された」
緑谷は目を瞬かせる。
「……それ つまり…どういう………」
「おまえに同様の何かを感じだってことだ。
なァ……オールマイトの隠し子か何かか?」
「ち、違うよそれは…って言っても
もし本当にそれ………隠し子だったら
違うって言うに決まってるから納得しないと
思うけどとにかくそんなんじゃなくて……
そもそもその…逆に聞くけど…
なんで僕なんかにそんな……」
轟は緑谷の言葉を途中で切る。
「……“そんなんじゃなくて”って言い方は
少なくとも何かしら言えない
繋がりがあるって事だな」
そして、少し視線を落とした。
「俺の親父はエンデヴァー 知ってるだろ。
万年No.2のヒーローだ。
おまえがNo.1の何かを持ってるなら
俺は……尚更 勝たなきゃいけねえ」
風が吹く。
廊下の空気がわずかに揺れた。
轟の声は静かだったが、どこか鋭かった。
「ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが…
それだけに生きる伝説オールマイトが目障りで
仕方なかったらしい。自分ではオールマイトを
超えられねえ親父は次の策に出た」
緑谷は戸惑いながら聞く。
「何の話だよ 轟くん…
僕に…何を言いたいんだ…」
轟はゆっくりと顔を上げる。
「“個性婚”知ってるよな」
「………!」
「“超常”が起きてから第二〜第三世代間で
問題になったやつ…自身の個性をより強化して
継がせるためだけに配偶者を選び……
結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想」
轟の声が、わずかに低くなる。
「実績と金だけはある男だ…
親父は母の親族を丸め込み、
母の個性を手に入れた。
俺をオールマイト以上の
ヒーローに育て上げる事で自身の欲求を
満たそうってこった。うっとうしい…!」
その言葉には、押し殺した怒りが滲んでいた。
「そんな屑の道具にはならねえ。
記憶の中の母は いつも泣いている…。
おまえの左側が憎い と、母は俺に
煮え湯を浴びせた。ざっと話したが
俺がおまえにつっかかんのは 見返すためだ」
轟は真っ直ぐ緑谷を睨む。
「クソ親父の個性なんざなくたって……いや…
使わず”一番になる”ことで奴を完全否定する」
その視線は酷く冷たかった。
緑谷はしばらく黙っていた。
何も言わないと思ったのか、
轟はその場を後にしようと歩き出す。
「言えねえなら別にいい。
おまえがオールマイトの何であろうと
俺は右だけでおまえの上に行く」
その背中に、声が飛ぶ。
「僕は…ずうっと救けられてきた」
轟の足が止まる。
「さっきだってそうだ…僕は
誰かに救けられてここにいる」
緑谷の声は震えていた。
それでも、まっすぐだった。
「オールマイト…彼のようになりたい…
その為には1番になるくらい強くなきゃいけない。
君に比べたら些細な動機かもしれない…
でも僕だって負けらんない」
拳を握る。
「僕は救けてくれた人たちに 応える為にも…!
さっき受けた宣戦布告 改めて
僕からも…、僕も君に勝つ!」
二人の間に静寂が落ちる。
その少し離れた場所。
校舎の影。
そこに一人、腕を組んで立っている影があった。
爆豪勝己。
さっきからずっと、二人の会話を聞いていた。
「……チッ。」
小さく舌打ちする。
そして興味を失ったように踵を返した。
「くだらねぇ。」
その背中は、すぐに校舎の中へ消えていった。
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