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尾白くんの言葉が響いた瞬間、
スタジアムがざわついた。

観客席も、出場者も、実況席も――
予想外の展開に空気が揺れる。

「尾白くん!何で…!?」

「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」

緑谷くんと麗日ちゃんが思わず声を上げる。

それは誰もが思ったことだった。

ここは雄英体育祭。
プロヒーローたちが直に見ている舞台。

辞退するなんて、普通は考えない。

尾白くんは少しだけ視線を落とし、
ゆっくり言った。

「騎馬戦の記憶…終盤ギリギリまで
ほぼボンヤリとしかないんだ。
多分 奴の個性で…」

そう言いながら、視線を向けた先。

そこに立っていたのは、
紫色の癖毛で目の下に濃い隈を作った
普通科の男子だった。

あの廊下で宣戦布告してきた生徒。

その人は、ただ静かにこちらを見ていた。

「チャンスの場だってのは分かってる。
それを不意にするなんて愚かな事だってのも…!」

尾白くんは拳を握る。

「尾白くん…」

緑谷くんの声が少し震える。

それでも尾白くんは首を振った。

「でもさ!皆んなが力を出し合い、
争ってきた座なんだ。
こんな…こんなわけわかんないまま
そこに並ぶなんて…俺は出来ない」

言葉は静かだった。

でも、迷いはなかった。

その空気に、A組も黙る。

「気にし過ぎだよ!
本選でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

「そうだよ!」

それでも励ます声が飛ぶ。

けれど尾白くんは俯いたまま、片手で顔を覆った。

「違うんだ…!
俺のプライドの話さ…俺が嫌なんだ。
あと何で君らチアの格好してるんだ…!」

最後の一言で、空気が一瞬だけ変になる。

(そこ!?)

耳郎ちゃんが「うぐっ…」と小さくうめいた。

そんな空気の中。

もう一人、手を挙げた生徒がいた。

「僕も同様の理由から棄権したい!
実力如何以前に…何もしてない者が上がるのは
この体育祭の趣旨と相反するのではないだろか!」

声の主は、B組の男子。

まるまるとしたシルエットが印象的な生徒だった。

会場がさらにざわつく。

「《なんか妙な事になってるが…》」

実況席のプレゼント・マイクも困惑している。

その横で担任の先生がぼそりと言う。

「これは主審のミッドナイトの判断だな」

視線が集まる。

ミッドナイトは腕を組んで、二人を見つめた。

そして――

にやりと笑う。

「そういう青臭い話はさァ…好み!!
尾白と二連撃くんの棄権を認めます!!」

その宣言に、再びどよめきが起こった。

棄権が正式に受理された。

「僕は、やるからね☆」

その横で、キラッと青山くんが言う。
彼は棄権せず、
トーナメントに出場することを選んだ。

(さすがというか…)

良くも悪くもブレない。

結果として、空いた枠は二つ。

繰り上がりが発生する。

「えーと…繰り上がりは5位のチーム…」

プレゼント・マイクがモニターを確認する。

5位はB組のチームだった。

ただ、そのチームの中で少し話し合いが始まる。

B組の中でも、どうやら意見があるらしい。

最終的に前へ出てきたのは――

ツタのような髪を持つ女子と、
鋼のような体つきの男子だった。

どうやら、騎馬戦の終盤で
普通科の紫髪の男子に
ポイントを奪われたチームらしい。

B組内の話し合いの結果、好成績だった二人が、
トーナメントへ上がることになったようだ。

そして――

いよいよ。

ミッドナイトがくじ引き箱を掲げる。

「それじゃあ いくわよ」

ボックスの中で、紙がかさりと鳴る。

順番に引かれていく。

モニターに対戦カードが映し出される。

会場の視線が一斉にそちらへ向いた。

そして。

自分の名前の横に表示された対戦相手を見た瞬間。

(あ。)

青山くん。

初戦の相手は、クラスメイトだった。







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