トーナメント二試合目。
轟くんと瀬呂くんの試合が始まった。
セメントスが作ったコンクリートの
ステージの上で、二人が向かい合う。
観客席のざわめきが少しずつ静まり返っていく。
さっきまでの緑谷くんと心操くんの
泥臭い試合とは、空気が少し違っていた。
(轟くん……)
綺羅はスタンド席からステージを見下ろす。
轟くんは相変わらず表情が薄い。
氷と炎の個性。
推薦入学。
体育祭が始まる前から、
実力者として名前が挙がっていた一人だ。
一方の瀬呂くんは、
いつも通り軽い雰囲気で肩を回している。
「よっしゃ!いくぜ轟!」
試合開始の合図と同時だった。
瀬呂くんの腕から、テープが勢いよく射出される。
ビュン、と空気を裂く音。
そのテープは轟くんの身体に巻き付き、
瞬く間にぐるぐると拘束した。
「取った!」
瀬呂くんがそのまま身体を引き、
場外へ投げ飛ばそうとする。
場外勝ち。
それが狙いだった。
けれど――
次の瞬間。
ゴゴゴッ!!
空気が震えた。
轟くんの足元から、一瞬で氷が噴き上がる。
白い氷柱が爆発するように広がり、
瀬呂くんの身体を飲み込んだ。
一秒もかからない。
瀬呂くんは、ほぼ全身を氷に閉じ込められていた。
その氷の勢いは止まらない。
ステージの端を越え、
観客席の方へと壁のように広がっていく。
「うわ……」
思わず綺羅は声を漏らした。
氷壁はスタンド席のすぐ手前まで迫り、
ようやく止まった。
その迫力に、観客席が一瞬静まり返る。
そして――
プロヒーローたちが座る客席の方から、
静かな声が広がった。
「どーんまい」
「どーんまい」
瀬呂くんに向けた、慰めのコール。
相手が悪かった、と言わんばかりの空気だった。
氷の中心で、轟くんが小さく肩を落とす。
「わりぃ…やりすぎた…」
そう言って、氷に閉じ込められた
瀬呂くんの方へ歩いていく。
右手をかざす。
赤い側。
じわり、と熱が広がり、氷が溶けていく。
パキン、と音を立てて氷が割れ、
瀬呂くんの身体が解放された。
その様子を見ながら、
綺羅は少しだけ胸の奥がざわつくのを感じた。
(……優しいんだ)
あれだけの力を持っているのに。
どこか、申し訳なさそうに謝る姿。
その背中は、少しだけ切なく見えた。
氷の破片がステージの上に散らばり、
溶けた水がコンクリートを濡らしている。
試合の流れが一度途切れた。
けれど、すぐに場内の空気が戻ってくる。
盛り上げ役の声が、再びスタジアムに響き渡った。
「《ステージを乾かして次の対決!!》」
プレゼント・マイクのテンションは、
むしろさっきより上がっている。
巨大モニターに、次のカードが映し出された。
上鳴くんと――B組推薦、塩崎さん。
(推薦……)
さっきの轟くんもそうだった。
推薦入学は、やっぱり強い。
どんな技を見せるんだろう。
綺羅も少し身を乗り出してステージを見つめる。
でも――
試合は長く続かなかった。
「《瞬殺!!あえてもう一度言おう!
瞬・殺!!!》」
プレゼント・マイクの実況がスタジアム中に響く。
「ウェイ……」
上鳴くんの力の抜けた声。
ステージの中央では、
上鳴くんの身体が荊棘に拘束されていた。
塩崎さんの個性――荊棘。
地面から生えた無数の棘が、
ドームのように上鳴くんを包み込んでいる。
その中で上鳴くんは――
バチバチバチ!!
大量の電気を放出していた。
けれど。
電撃は塩崎さんまで届かない。
厚みのある荊棘の壁が、すべてを受け止めている。
そして。
電力を使い果たした瞬間。
「ウェイ…ウェイ…」
上鳴くんは、完全にアホになっていた。
荊棘の向こう側で、塩崎さんが静かに両手を組む。
祈るような姿勢。
神に祈りを捧げる塩崎さん。
「ウェイ…」
アホになって「ウェイ」しか言わない上鳴くん。
なんとも言えない、シュールな光景だった。
綺羅は思わず苦笑する。
(なんか……凄い絵面)
観客席からも、くすくすと笑いが広がっていた。
その時。
ふと、気付く。
「試合のテンポ早くない?」
小さく呟く。
トーナメントの順番を頭の中で思い出す。
そして。
「あっ」
思わず声が出た。
「飯田くんの次もう私だ!」
慌てて席を立つ。
「綺羅頑張ってね〜!」
芦戸ちゃんの声。
「応援してるよー!」
葉隠ちゃんも声を上げる。
振り返って笑った。
「ありがとう!」
軽く手を振る。
胸の奥が、少しだけ高鳴っている。
いよいよ自分の番だ。
スタンド席を離れ、通路へ向かった。
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