観客席――A組のスタンド席。
星宮綺羅と青山優雅の試合は、
あまりにも一瞬だった。
青山が吹き飛ばされ、担架ロボが運び去り、
実況が勝者を告げる。
それらすべてが終わってもなお、
スタンド席の空気は一瞬遅れて爆発した。
綺羅対青山の試合を見ていたA組スタンド席は、
騒がしいほどに盛り上がっていた。
「綺羅すごーい!!」
芦戸三奈が勢いよく立ち上がり、
ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
さっきまでの静まり返った空気が嘘みたいに、
顔いっぱいに笑顔が広がっていた。
「今の一瞬だったね!ね!ね!?」
隣で葉隠透も身を乗り出している。
姿は見えないけれど、
声の弾み方だけで興奮しているのが分かった。
「瞬きしたら青山吹き飛んでたぞ!?
マジで何が起きたんだよ今!?」
上鳴電気は身を乗り出して、
まだ信じられないという顔をしている。
「綺麗に決まったなー!
いやあの回し蹴り、
めちゃくちゃキレ良かったぞ!
あれは男でも惚れるレベルだろ!」
切島鋭児郎も拳を握りしめて興奮していた。
「青山ーお前の気持ちは分かるぞー」
そう声を上げたのは瀬呂範太だった。
ついさっき、氷で一瞬にして
試合を終わらされた当人である。
肩を落としながらも、どこか同情するように
ステージの方へ手を振っていた。
「ほんま速すぎて見えんかった…」
麗日お茶子も目を丸くしている。
さっきまでの展開が信じられないのか、
まだステージの方をじっと見つめていた。
「どういう仕組みなのかしら?」
蛙吹梅雨が静かに言う。
周囲が騒いでいる中でも、落ち着いた声だった。
「動作のたびに光ってた気はするけど…」
耳郎響香も少し首を傾げる。
「でも、あの速さは普通じゃないよね」
A組の席はざわざわと騒がしい。
皆それぞれに驚きや興奮を口にしていた。
そんな中。
一人だけ、空気が違う人物がいた。
「……チッ」
大きな舌打ちが響く。
爆豪勝己だった。
深く椅子に座り、足を組んだまま
ステージを睨んでいたが、
苛立ったように立ち上がる。
そしてそのまま、
スタンド席の階段を降りていった。
誰も声を掛けない。
その背中からは、明らかに
不機嫌な空気が漂っていた。
その様子を少し気にしながらも、麗日が隣を向く。
「デクくん、凄かったね!」
声を掛けられた相手――
緑谷出久は、反応が遅かった。
視線はステージではなく膝の上に落ちていた。
太ももの上にノートを広げ、ペンを走らせている。
ガリガリガリ、と紙を削るような音。
そして小さく、ぶつぶつと独り言。
「星宮さんの個性はスターライト…、
今のはおそらく足に光エネルギーを集中させて、
光を弾けさせた反動で加速させ、
それを繰り返す事で連続加速を可能とした
あのスピードを出せるんだ…。
かっちゃんと爆破とは似ているようで違うのは、
小さな光エネルギーでも超加速が成立するほどの
威力とスピード、然も長距離ではなく短距離の
連続加速だから軌道修正しても
スピードが落ちないんだ…。
騎馬戦でかっちゃんが自由に空中移動していたのも
それか…なるほど、仲間をサポートする事も出来る
万能個性…。というかそもそも
光を操るスピードが追い付いている事が
まず星宮さんの元々のポテンシャルが無いと
成立しない戦い方だし、それを既に完成させてる
なんて…どんな特訓しているんだろう…」
ペンは止まらない。
ページの端までびっしり書き込まれていく。
麗日は、その勢いに思わず息を飲んだ。
(で、出た……)
デクの分析モード。
しかも今回は、いつも以上に長い。
目は真剣そのもの。
完全に研究者の顔だった。
麗日はごくりと唾を飲み込みながら、
そっと距離を少しだけ取った。
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