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試合を終えて、スタンド席へ戻る。

階段を上がるたびに、
観客席のざわめきがまた近くなる。
さっきまで戦っていたリングが
見下ろせる位置まで戻ってくると、
見慣れた背中がいくつも並んでいた。

「綺羅お疲れー!」

振り返った芦戸ちゃんが、
ぱっと笑顔を向けてくる。

「速かったよー!」

葉隠ちゃんも興奮した声で両手を振っていた。

「ありがとー!今切島くん達始まったところ?」

そう言いながら葉隠ちゃんの隣に腰を下ろす。

座った瞬間、リングの上から重たい音が響いた。

バキッ!!

「そうだよ!B組の鉄哲?と殴り合いしてる!」

芦戸ちゃんに言われてステージを見る。

切島くんは全身を硬化させていて、
その向かいには銀色に変化した男子――鉄哲くん。

二人とも拳を振り上げ、
真正面からぶつかっていた。

ガンッ!!

硬い音が、スタジアムに響く。

普通の殴り合いとは音が違う。

まるで金属と岩がぶつかっているみたいだった。

(すごい……)

騎馬戦の時。

物間くんが爆豪くんの個性をコピーして見せた時、
切島くんが「爆豪おめーもか!」と
叫んでいたのを思い出す。

そのあと、確か。

“似た個性のやつがいる”って言っていた。

(鉄哲くんのことだったんだ)

硬化と、鋼鉄。

ほとんど同じ系統の個性同士。

拳と拳が何度もぶつかる。

ゴンッ!

バキッ!

互いに退かない。

そのまま、正面から殴り続ける。

(これは……長くなりそう)

思わずそう思った時だった。

「綺羅ちゃんは次常闇ちゃんとね」

前の席から、蛙吹梅雨ちゃんが振り返る。

「あ、常闇くん勝ったんだ!」

思わず身を乗り出す。

「移動中で見れなかったの残念だったなー」

私の試合のあと。

常闇くんと八百万さんの試合だった。

梅雨ちゃんの話によると、
八百万さんは個性の“創造”で
対抗策を作ろうとしていたらしい。

けれど。

常闇くんの相棒――ダークシャドウ。

そのスピードが想像以上だった。

作るより先に、攻撃が届く。

結果、試合はあまり長く続かなかったらしい。

(ダークシャドウとスピード勝負……)

頭の中に黒い影の姿が浮かぶ。

(楽しみだなー)

自然と口元が少し緩んだ。

そんなことを考えながら、またステージを見る。

切島くんと鉄哲くんの殴り合いは、
まだ続いていた。

互いに拳を打ち込み、
互いに受け止める。

単純だけど、ものすごく熱い試合だった。

そして――

ドンッ!!

二人が同時に倒れた。

観客席がざわめく。

両者同時ダウン。

結果は――引き分け。

「えー!?マジか!」

上鳴くんが声を上げる。

試合はそこで終わらず、
軽く回復したあと、
簡単な勝負で決着をつけることになった。

――腕相撲。

結果。

「おっしゃあああ!!」

切島くんが勝ち進む。

A組の席からも拍手が上がった。

でも。

問題は次だった。

トーナメント対戦相手が発表された時から、
観客席がざわざわしていた。

(……あ)

モニターを見た瞬間、理由が分かる。

「次 ある意味 最も不穏な組ね」

梅雨ちゃんが静かに言う。

その視線の先を、私も見る。

「ウチなんか見たくないなー」

耳郎ちゃんが背もたれに寄りかかりながら呟いた。

女子は特に、見ていて落ち着かない試合だろう。

普通なら、向かい合うだけで
威圧感に押されてしまいそうな相手。

ステージの中央。

そこに立つ二人。

麗日ちゃんの向かいには――

爆豪くんが立っていた。









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