「《中学からちょっとした有名人!!
堅気の顔じゃねえ ヒーロー科 爆豪勝己!!
vs…俺こっち応援したい!!
ヒーロー科 麗日お茶子!》」
プレゼント・マイクの実況が
スタジアムに響き渡る。
観客席は一気に沸き立った。
私は前のめりになりながら、
ステージの二人を見つめる。
爆豪くんは、静かだった。
歓声も実況も気にする様子はない。
ただ――まっすぐに麗日ちゃんを睨んでいる。
「お前 浮かす奴だな。
退くなら今退けよ。“痛ぇ”じゃすまねぇぞ」
低い声。
脅しのように聞こえるけれど、
あれはきっと爆豪くんなりの忠告だ。
けれど。
ヒーロー科に来た以上――
退く選択肢なんて、最初からない。
「《START!!!!》」
開始の合図が響く。
「退くなんて選択肢ないから!」
麗日ちゃんが地面を蹴った。
一直線に爆豪くんへ向かう。
麗日ちゃんの個性は“無重力”。
触れた物体を浮かせる。
つまり、勝つ方法は一つ。
触ること。
近づいて、触れて、浮かせる。
それだけ。
爆豪くんも、それを理解している。
だから――
BOOM!!!
爆破でステージをガリガリと抉るように
手を掬い上げるようにし、
瓦礫と砂煙が一気に広がる。
「ぶわっ!!」
麗日ちゃんが腕で顔を覆う。
目を守るためだ。
その一瞬で。
爆豪くんは距離を取る。
「じゃあ死ね」
吐き捨てるように言う。
砂煙の中で、状況は見えづらい。
スタンド席からも細かい動きが読み取れない。
(麗日ちゃん…)
私は目を凝らす。
砂煙の中で、影が動いた。
麗日ちゃんが背後に回っている。
上着をダミーにして。
けれど――
BOOM!!
爆破。
また砂煙が広がる。
爆豪くんの反応は速すぎた。
才能の塊。
その言葉がぴったりだった。
それでも。
麗日ちゃんは諦めない。
何度も突っ込む。
何度も避けられる。
その繰り返し。
観客席がざわつく。
A組の席でも、空気が重くなっていた。
(でも…)
私は目を離さない。
砂煙の向こうで、
麗日ちゃんが低く構えて突っ込む。
爆豪くんの爆破が地面を叩き、また砂煙が広がる。
その時だった。
(……あれ?)
ふと視線を上げる。
空。
ステージの上。
砂煙に紛れて、何かがわずかに光を反射している。
小さな点。
一つじゃない。
いくつも。
(……小石?)
一瞬、考えが繋がる。
ステージは砂地。
細かい砂の中に、小石が混ざっている。
麗日ちゃんの個性は触れた物体を浮かせる。
つまり――
(集めてる…)
気付かれないように。
爆豪くんの視線を下に集中させながら。
砂煙を利用して。
少しずつ。
上空に。
(すごい…)
思わず息を呑む。
観客席からは気付きにくい。
でも確かに――
空に小石が溜まっている。
実況席ではまだ誰も気付いていない。
ブーイングの声まで上がり始めている。
その時。
相澤先生がマイクを奪った。
「《今 遊んでるっつったのプロか?何年目だ?》」
淡々とした声。
そして続く言葉。
「《シラフで言ってんなら
もう見る意味ねえから、帰れ。
帰って転職サイトでも見てろ。
ここまで上がってきた相手の力を
認めてるから警戒してんだろう。
本気で勝とうとしてるからこそ、
手加減も油断も出来ねえんだろが》」
思わず口元が緩む。
(その通り)
爆豪くんは油断していない。
だからこそ――
麗日ちゃんは準備できた。
「そろそろ…か…な…、ありがとう爆豪くん…
油断してくれなくて…!」
「あ…?」
麗日ちゃんが指を合わせる。
その瞬間。
私は空を見る。
(来る)
「勝あアアアつ!!!!」
指先が離れる。
無重力解除。
上空に溜まっていた小石が――
一斉に落ち始めた。
「《流星群ー!!!!》」
プレゼント・マイクが叫ぶ。
「気付けよ」
隣で相澤先生が冷静にツッコんでいる。
小石が降る。
爆豪くんの視界を奪う。
その隙に触れて――浮かせる。
その作戦。
でも。
BOOOOOM!!!!!
爆豪くんの爆破が、上空へ放たれる。
衝撃波。
小石は一瞬で弾き飛ばされた。
ステージ外へ散らばる。
(……!)
麗日ちゃんが怯む。
武器を失った。
爆豪くんが笑う。
まだ戦う気だ。
本気の目。
だけど――
走り出そうとした麗日ちゃんの足が崩れた。
そのまま倒れる。
個性の限界。
許容重量を超えていた。
それでも。
麗日ちゃんは立とうとする。
立ち上がろうとする。
でも。
体は動かない。
ミッドナイト先生が近づく。
「………麗日さん…行動不能
二回戦進出 爆豪くん!」
静かな宣告。
爆豪くんは振り返る。
そして。
何も言わずに、歩き去った。
ステージに残ったのは、麗日ちゃんだけ。
そして。
スタジアムに広がる静かな余韻。
これで――
一回戦は、すべて終了した。
観客席にアナウンスが流れる。
小休憩。
次は――
二回戦だ。
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