「《ああ麗日…ウン 爆豪1回戦とっぱ…》」
どこか歯切れの悪い実況だった。
「ちゃんとやれよやるなら…」
隣から聞こえる低い声。
実況席の様子をモニター越しに見ながら、
思わず少しだけ肩が揺れる。
「《さァ気を取り直して》」
「私情すげえな………」
プレゼント・マイクの露骨な落ち込みに、
相澤先生が冷静にツッコんでいる。
さっきまであれだけテンションの高かった実況が、
急にしょんぼりしているのだから無理もない。
でも次の瞬間、プレゼント・マイクは
ぐっと声を張り上げた。
「《一回戦が一通り終わった!!
小休憩挟んだら早速次行くぞー!》」
無理やりテンションを戻した感じが少し面白い。
スタジアム全体が、
どこか一息つくような空気になる。
小休憩。
観客席でもざわざわとした会話が広がっていた。
私たちA組の席でも同じだ。
さっきまでの試合の余韻がまだ残っている。
芦戸ちゃんと葉隠ちゃんが
麗日ちゃんの作戦の話をしていたり、
瀬呂くんと峰田くんはふざけ合っていたり、
そんな中――
階段を上がる足音が聞こえた。
爆豪くんだ。
試合を終えて戻ってきたらしい。
「おーう 何か大変だったな悪人面!!」
上鳴くんが、いつもの軽い調子で声をかける。
「組み合わせの妙とはいえ、
とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」
梅雨ちゃんも淡々と続けた。
二人とも、完全に皮肉だ。
「うぅるっせえんだよ黙れ!!」
爆豪くんは、いつも通り怒鳴り返した。
声の大きさも、表情も、普段と何も変わらない。
(通常運転だ)
思わず小さく笑いそうになる。
「まァーしかしか弱い女の子に
よくあんな思い切りの良い爆破出来るな。
俺はもーつい遠慮しちまって…」
上鳴くんが肩をすくめながら言う。
「完封されてたわ 上鳴ちゃん」
梅雨ちゃんの一言。
「…あのな梅雨ちゃん…」
上鳴くんが言葉を詰まらせる。
さっきの試合。
遠慮するどころか、
上鳴くんは全力で放電していた。
でも結果は――
塩崎さんに完全封じ。
その事実を、梅雨ちゃんは容赦なく突きつける。
「フンッ!!どこがか弱ェんだよ」
爆豪くんが、どかっと
前の椅子に座りぽつりと呟いた。
怒鳴るほど大きな声じゃない。
でも。
(聞こえた)
私はその言葉を聞き逃さなかった。
か弱い女の子。
そんなふうには見ていない。
爆豪くんは最初から――
対等な相手として戦っていた。
だから油断しなかった。
だから全力だった。
その考え方は、ヒーローとしてすごく
真っ当だと思う。
自然と口元が緩む。
私は両肘を膝に乗せて頬杖をついた。
そして少し嬉しくなりながら、
爆豪くんの方を見る。
(いいなぁ)
女だからって手加減しない。
それは、ちゃんと同じ舞台の戦士として
見ているってことだ。
ヒーローを目指すなら、
むしろその方がずっと誠実だと思う。
爆豪くんはそんな視線に気付く様子もなく、
両足を前の座席に乗せて深く座っていた。
スタジアムのアナウンスが流れる。
休憩が終わり、トーナメントは次の段階へ進む。
二回戦。
モニターに組み合わせが映し出される。
――緑谷くん vs 轟くん
――飯田くん vs 塩崎さん
――私 vs 常闇くん
――切島くん vs 爆豪くん
(常闇くんか)
黒い影の相棒――ダークシャドウ。
さっき梅雨ちゃんが言っていたスピード。
頭の中で、戦い方を想像する。
(楽しみ)
胸の奥が少しだけ高鳴った。
体育祭のトーナメントは、まだ終わらない。
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