「《1回戦の圧勝で観客を文字通り凍りつかせた男!
ヒーロー科!轟焦凍!!
かたやこっちはヒヤヒヤでの1回戦突破!
今度はどんな戦いを見せてくれるのか!?
ヒーロー科!緑谷出久!!》」
プレゼント・マイクの実況がスタジアム中に響く。
観客席のざわめきが一段と大きくなる。
私は背もたれから少し身を乗り出して、
ステージを見下ろした。
リングの中央で向かい合う二人。
轟くんと、緑谷くん。
空気が張り詰めている。
「《スタート!!》」
合図が鳴った瞬間だった。
轟くんの足元から、氷が爆発するように噴き出す。
一回戦で瀬呂くんを飲み込んだ、あの巨大な氷壁。
ステージいっぱいに広がる氷の波。
(来た)
次の瞬間。
パチンッ!!
乾いた音が響く。
轟くんの氷壁が――砕けた。
風圧。
指を弾いた衝撃波が氷を粉砕したのだ。
「《おオオオ!!破ったあああ!!》」
プレゼント・マイクの叫び。
観客席が一気に沸いた。
でも――
(あれ……)
私は緑谷くんの手を見る。
指。
一本、ありえない方向に曲がっていた。
(折れてる)
氷壁を砕くたびに、指が壊れていく。
それでも。
轟くんが次の氷を出す。
緑谷くんが弾く。
また折れる。
また砕く。
その繰り返し。
(無茶苦茶だ……)
でも、ただの無茶じゃない。
緑谷くんは――
時間を稼いでいる。
轟くんの動き。
癖。
隙。
それを探している。
轟くんもそれに気付いたのか、距離を詰めてきた。
足元に氷の段を作り、一気に上から攻撃。
緑谷くんが足場を崩す。
氷が崩れる。
振り下ろされた攻撃を、
緑谷くんがギリギリで避ける。
その隙に――
氷。
迫る。
でも。
緑谷くんは片腕を振り抜いた。
MAXの力。
氷が弾き飛ばされる。
同時に。
緑谷くんが呻いた。
指。
もう全部壊れている。
(……)
観客席の空気が変わった。
さっきまでの歓声が消える。
これは――
力の差が大きすぎる。
個性。
判断力。
戦闘能力。
轟くんは、ヒーローとしての資質が高すぎた。
「守って逃げるだけでボロボロじゃねえか。
悪かったな。ありがとう 緑谷。
おかげで…奴の顔が曇った。
その両手じゃもう戦いにならねえだろ。
終わりにしよう。」
轟くんが視線を上げる。
観客席。
そこに立つ人物。
No.2ヒーロー。
エンデヴァー。
(……あ)
私は思わず目を細めた。
轟くんの視線。
ずっとそこに向いている。
「《圧倒的に攻め続けた轟!!
とどめの氷結をーーー…》」
実況が試合の終わりを予感させる。
でも。
「どこ見てるんだ…」
緑谷くんが呟いた。
壊れた指。
それでも。
また弾く。
風圧。
氷が砕けた。
私はそこで気付く。
(あ……)
轟くんの身体。
右側。
氷が増えるほど、動きが鈍くなる。
(温度)
個性も身体機能。
冷気には限界がある。
でも。
轟くんにはもう一つの力がある。
左側。
炎。
それを使えば――
温度は相殺される。
エンデヴァーが“完成系”と呼ぶ理由。
「……っ!!皆…本気でやってる!
勝って…目標に近づく為に…っ!一番になる為に!
半分の力で勝つ!?まだ僕は君に、
傷一つ付けられちゃいないぞ!
全力でかかって来い!!」
緑谷くんが叫ぶ。
ボロボロの拳を握る。
その姿に、スタジアムの空気が揺れた。
「何の……つもりだ。全力…?
クソ親父に金でも握らされたか…?
イラつくな………!」
轟くんの目が鋭くなる。
距離を詰める。
その瞬間。
緑谷くんが殴った。
そのまま追撃。
猛追。
轟くんが氷を出す。
でも。
動きが鈍い。
凍傷。
身体が追いつかない。
緑谷くんは口で指を弾く。
痛々しい。
見ているだけで胸が苦しくなる。
主審と副審が話し合っている。
止めるかどうか。
でも。
轟くんは止まらない。
緑谷くんの必死さに押されていた。
「何で そこまで…」
轟くんが問う。
「期待に応えたいんだ…!
笑って、応えられるような、
カッコイイヒーローに、なりたいんだ!!
だから全力で!やってんだ皆!
君の境遇も君の決心も僕なんかに
計り知れるもんじゃない…でも……
全力も出さないで 一番になって、
完全否定なんて フザけるなって今は思ってる!」
緑谷くんの声。
真っ直ぐだった。
轟くんの表情が歪む。
「うるせえ……!」
「だから……僕が勝つ!!」
「親父をーーー…」
「君の!力じゃないか!!」
その瞬間。
轟くんの左側から、炎が噴き上がった。
右には氷。
左右で全く違う景色。
「俺だって……ヒーローに………!!!」
轟くんの目に涙が浮かぶ。
緑谷くんが震える。
武者震い。
私も思わず息を呑む。
(すごい……)
想像より、ずっと。
迫力が違う。
「焦凍ォオオオ!!!やっと己を受け入れたか!!
そうだ!!良いぞ!!ここからがお前の始まり!!
俺の血を持って俺を超えて行き…
俺の野望をお前が果たせ!!」
観客席で、エンデヴァーが叫ぶ。
スタジアムの空気が凍りつく。
「《エンデヴァーさん 急に激励…か?
親バカなのね》」
プレゼント・マイクの実況。
No.2ヒーローを親バカ扱いしていた。
(親バカ…確かに)
あんなに子どもに関心を持つ親
そうそういないよね。
でも。
ステージはもう終盤だった。
「凄……」
緑谷くんが呟く。
半冷半燃。
轟くんの個性。
「何笑ってんだよ。その怪我で…
この状況でお前…イカレてるよ。
どうなっても知らねえぞ」
緑谷くんが最後の力を振り絞る。
轟くんも踏み込む。
ミッドナイト先生とセメントス先生が動く。
止めようとしている。
でも。
間に合わない。
「緑谷、ありがとな」
轟くんの声。
次の瞬間。
氷と炎がぶつかる。
化学反応。
大爆発。
爆風。
砂煙がステージを覆う。
視界が白くなる。
私は息を止めて、その先を待った。
やがて。
煙が晴れる。
そこにいたのは――
「緑谷くん……場外!轟くんーー…三回戦進出!!」
緑谷くんは、
スタジアムの壁まで吹き飛ばされていた。
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