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緑谷くんと轟くんの闘いが終わると、
ステージのあちこちから煙が
まだゆらゆらと上がっていた。

氷が砕け、炎で焦げ、爆風で削れた床。

さっきまで戦いの中心だったリングは、
まるで戦場の跡みたいになっている。

そのため、試合はまたしばらく休憩になった。

観客席から見下ろすと、
セメントス先生がステージに手をかざしている。

コンクリートの床が、まるで生き物みたいに動く。

ひび割れた部分が寄り集まり、
崩れた場所が盛り上がり、平らになっていく。

(すごい…)

思わず見入ってしまう。

壊れたはずのリングが、
みるみる元の形に戻っていく。

個性って、本当に不思議だ。

攻撃に使うものもあれば、
こうして修復に使えるものもある。

(ヒーローって、色んな役割があるんだな)

そんなことを考えていると、下で動きがあった。

緑谷くんを担架で運んでいる。

それを見て、席から立ち上がる人がいた。

麗日ちゃん。

飯田くん。

梅雨ちゃん。

そして峰田くん。

四人とも、慌てた様子で観客席を離れていく。

きっと保健室だ。

(緑谷くん……)

あの戦い方。

普通じゃない。

観客席に残ったA組の空気は、
さっきまでとは少し違っていた。

興奮というより――

少し引いている感じ。

「緑谷大丈夫かな…」

尾白くんが心配そうに呟く。

「まぁー…毎度自滅なんだけどなー」

瀬呂くんが肩をすくめた。

「いやマジでさ、あれ痛くねーのか?」

上鳴くんが顔をしかめる。

「相澤先生も言ってたけど、
毎回あれじゃあ大変だよねえ…」

芦戸ちゃんも少し困ったような顔をしている。

私はステージを見ながら、静かに考えていた。

(あの戦い方…)

ヒーロー科として成立しているのは――

リカバリーガールの存在があるからだ。

普通なら、あんな怪我。

すぐには治らない。

授業も、体育祭も、まともに出られない。

(超パワー…)

制御が難しい個性。

公共の場では個性を使えない。

練習だって、自由にはできない。

(調整…大変そう)

そんなことを考えていると、実況の声が響いた。

「《ステージ重複完了!
まもなく飯田vs塩崎の試合を始めるぜ!》」

プレゼント・マイクの声。

リングはもうすっかり元通りだ。

二回戦、次のカード。

飯田くんと塩崎さん。

私は背もたれから体を起こした。

この試合が終われば――

次。

(私だ)

「綺羅ちゃん次も頑張ってね!」

葉隠ちゃんの声。

「うん!ありがとー!」

思わず笑って答える。

席を立つ。

スタンド席を離れて、内部通路へ向かう。

その時だった。

(……あれ?)

通路の空気が、やけに熱い。

内部通路はまるで、
暖房の前に立ったみたいな熱気だった。

曲がり角を曲がった瞬間。

「わ…!」

目の前に、巨大な影。

「む…すまない」

低い声。

思わず一歩止まる。

目の前に立っていたのは――

エンデヴァーだった。

炎のヒーロー。

No.2ヒーロー。

(近っ……)

顔のすぐ前に、燃えるような熱気。

(危うく鼻火傷するところだった…!)

思わずそんなことを考えてしまう。

「大丈夫です!」

私は慌てて笑顔を作る。

見上げる。

エンデヴァーの目がこちらを見ていた。

ほんの少し、視線が細くなる。

「君は…1回戦圧勝していたな。おめでとう」

低い声。

「え!ありがとうございます!
No.2から褒めてもらえるなんて嬉しいです!」

思わず声が弾む。

まさかこんなところで話すなんて思わなかった。

エンデヴァーは、少しだけ沈黙する。

そのまま私を見て――

「……決勝まで進めると良いな」

そう言った。

短い言葉。

それだけ言って、横を通り過ぎていく。

炎の熱気が、すっと遠ざかる。

(……)

少しだけ、その背中を見る。

(ここにいるってことは)

さっきの試合。

轟くん。

きっと、何か話していたのかもしれない。

でも――

(私が踏み込むことじゃないよね)

私は小さく首を振った。

緑谷くんは、何か知っている様子だった。

でも。

今は。

(トーナメント)

それだけだ。

その時、スタジアムの歓声が大きくなった。

「《飯田天哉 3回戦突破!ベスト4進出!!》」

実況が響く。

(あ)

次だ。

私は慌てて通路を走り出す。

ステージへ向かう。

次の試合。

星宮綺羅――

対。

常闇踏陰。









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