「《続いての対決は1回戦手数を見せずに
光速勝利したヒーロー科 星宮綺羅!
vs、ダークシャドウを操る闇の刺客常闇踏陰!
まさに光と闇対決!》」
プレゼント・マイクの実況が
スタジアムに響き渡る。
観客席から歓声が上がった。
私はリングの中央に立ちながら、
ゆっくりと呼吸を整える。
次の相手は常闇くん。
さっきの試合で八百万さんを圧倒した
ダークシャドウ。影のモンスターを操る個性。
(光と闇かぁ…)
実況の言葉を思い出して、少しだけ口元が緩む。
確かに分かりやすい対比だ。
私は両足の感覚を確かめながら軽く構える。
光を足場にすれば距離は一気に詰められる。
でもダークシャドウは近距離でも強い。
(どう出るかな)
そう考えていた、その時だった。
常闇くんが、すっと手を挙げた。
「《おっとぉ?どうした常闇!》」
実況の声が上がる。
(あれ?)
私は思わず肩の力が抜けた。
試合開始直前に手を挙げるなんて、普通じゃない。
常闇くんは静かに口を開く。
「悪いが、ここは棄権させて貰う」
その言葉が落ちた瞬間。
スタジアムが一斉にざわついた。
「えっ!?」
「棄権!?」
「マジかよ!」
観客席が一気に騒がしくなる。
私は思わず瞬きをした。
まるで豆鉄砲でも食らったみたいに、
頭が真っ白になる。
(え…?)
試合前。
まだ何も始まっていない。
それなのに――棄権?
常闇くんは落ち着いた声で続ける。
「星宮の個性は、ダークシャドウの嫌う
光そのもの…見ての通りダークシャドウが
嫌がって出てこようとしない。
本気でぶつかり合うこの場で心苦しいが、
棄権させて欲しい」
私はそこでようやく理解した。
(あ……)
光。
そして闇。
ダークシャドウは影の個性。
私の光は、そのまま天敵になる。
さっきから、常闇くんの周りに
影が現れないのも――
そのせいなのかもしれない。
主審のミッドナイト先生が手を上げる。
「棄権を許可します!よって、
星宮綺羅さん準決勝進出!」
「《星宮綺羅不戦勝で準決勝進出ー!
なんてラッキーガールなんだ!
個性相性の重要さがよく分かるな!》」
プレゼント・マイクが叫ぶ。
観客席から歓声が上がる。
でも――
「ええ!?」
思わず声が出た。
(終わり!?)
私はまだ戦っていない。
リングに立っただけで試合が終わった。
私は常闇くんを見る。
「……すまない」
彼は静かに言った。
「いや、そんな!」
私は慌てて首を振る。
「むしろ私こそ何もしてないし…!」
でも常闇くんは落ち着いたまま言う。
「ヒーローにとって相性は現実だ。
今回はそれが顕著だっただけのこと」
その言葉は、静かだけど重かった。
それから常闇くんはくるりと背を向ける。
迷いなく、出口の方へ歩いていく。
私はリングの中央に一人残された。
観客席から拍手が広がる。
歓声も聞こえる。
でも胸の中は少しだけ落ち着かない。
(準決勝……)
まだ戦っていないのに。
気付けば、そこまで来てしまった。
大型モニターにトーナメント表が映る。
ベスト4。
――轟焦凍
――飯田天哉
――星宮綺羅
――そして……
(爆豪くん)
次の試合。
切島くんと爆豪くん。
その勝者が――
私の準決勝の相手になる。
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