綺羅はスタンド席には戻らず、
そのまま控え室へと入った。
ドアを開けると、思っていたよりも
静かな空間が広がっている。
椅子が並び、壁際には大きなモニター。
そこに映っているのは、
次の試合のステージだった。
控え室には一人だけ先客がいた。
轟くんだ。
椅子に腰掛けたまま、
ぼんやりとモニターを見ている。
「轟くん、お疲れ!」
私は軽く手を上げて声をかけた。
「……あぁ」
短い返事。
さっきの試合の余韻なのか、
まだどこか思考が遠くにあるみたいだった。
私は少しだけ間隔を空けて、
隣の椅子に腰を下ろす。
モニターに映っているのは、次の試合。
爆豪くんと切島くん。
二人ともすでにリングの中央に立っていた。
試合が始まった瞬間――
爆音。
BOOM!!
爆豪くんの爆破が響く。
それを正面から受け止める切島くん。
体を赤く硬化させて、拳を振り上げる。
まっすぐな殴り合い。
爆破と硬化。
シンプルだけど、すごく迫力がある。
「うわあ…切島くん相手だと
殴り合いになって痛そうだね…!」
返事がないのは分かっていたけれど、
私はつい声に出してしまった。
モニターの中では、二人が何度もぶつかっている。
爆豪くんの爆破。
切島くんの硬化。
拳と爆炎が交錯する。
(すごいな…)
見ているだけで、胸が少しざわざわする。
落ち着かない。
理由は分かっている。
(みんな本気で戦ってる)
それなのに。
私はまだ――
ほとんど戦っていない。
常闇くんとの試合は棄権。
青山くんとの試合も一瞬だった。
(全然疲れてない…)
身体は軽い。
呼吸も整っている。
それが、少しだけ落ち着かない。
(次…)
モニターの中で爆豪くんが爆破を放つ。
切島くんがそれを受け止める。
(切島くんも強いけど…)
たぶん。
勝つのは――
爆豪くん。
(終わったら、すぐ
リカバリーガールのところ連れていこう)
爆破の反動は、腕にくる。
何度も使えば、ダメージは残るはずだ。
(私だけ元気なの、なんか忍びないし)
そんなことを考えていると――
試合が動いた。
爆豪くんの動きが変わる。
爆破を連続で放つ。
休ませない。
切島くんの硬化は、力むことで発動する。
つまり――
持続には限界がある。
爆豪くんはそれを見抜いていた。
爆破。
爆破。
爆破。
休ませない。
切島くんの硬化が少しずつ弱まる。
その瞬間。
爆豪くんの拳が叩き込まれた。
切島くんの体が揺れる。
そして――
勝負が決まった。
(あ…)
これで。
私の次の相手が決まる。
爆豪勝己。
麗日ちゃんの試合を思い出す。
容赦しない戦い方。
爆破の威力。
戦闘のセンス。
(強い)
そして。
本気だ。
(どこまでやれるかな)
胸の奥が、少しだけ高鳴る。
初めて――
少し緊張してきた。
その時だった。
隣で椅子が動く音がする。
轟くんが立ち上がっていた。
控え室の出口へ向かう。
「轟くん頑張ってね!
決勝で戦えるように頑張るから!」
私は思わず声をかけた。
轟くんの背中が止まる。
少しだけ振り向く。
「……お前は、いつも楽しそうだな…」
思いがけない言葉だった。
私は少し驚いて、それからゆっくり答える。
「うん…色んな個性が本気でぶつかり合って、
勝とうとするのってヒーローみたいで楽しいよ。
…って、私はまだ一戦しか出来てないけど!」
最後は笑って誤魔化した。
「……そうか」
轟くんはそれだけ言うと、控え室を出ていった。
ドアが静かに閉まる。
「……あ!」
私は突然思い出した。
(爆豪くん!)
椅子から立ち上がる。
「爆豪くんをリカバリーガールのとこ
連れてかなきゃ!」
慌てて控え室を飛び出す。
通路を走る。
前を歩いていた轟くんを追い抜く。
そして。
試合を終えた二人を見つけた。
「いたいた!2人ともお疲れ!」
「星宮…?なんで…」
切島くんが不思議そうにこちらを見る。
私は迷わず手を伸ばした。
掴んだのは――
爆豪くんの腕。
「リカバリーガールの所行こう爆豪くん!」
「あ!?」
突然の行動に、爆豪くんが怒鳴る。
「私不戦勝ですこぶる元気だから、
爆豪くんも元気じゃなきゃ対等じゃないよ!
だから次の試合終わる前に早く回復して貰おう!」
「離せや!すこぶる元気だわ!!
テメェもぶっ潰す!!」
爆豪くんはそう言いながら、
思いきり腕を振り払う。
私の手が弾かれる。
そのまま爆豪くんは、
ドシドシと不機嫌そうに通路を歩いていった。
「そう?それなら良いけど…」
私は少し首を傾げる。
本当に元気なのかな。
疑いながらも、その背中を見送った。
その隣で、今のやり取りを見ていた切島くんが
ぽかんと口を開けている。
(あれ)
なんだろう。
そんなに変だったかな。
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