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試合を終えた私は、
そのまま自分の足で救護室へ向かった。

爆豪くんの最後の爆破は、
防壁ごと吹き飛ばされたから
さすがに体がじんと重い。
歩けないほどじゃないけれど、
ところどころ打った場所が鈍く痛んでいた。

救護室のドアを開けると、
小さなおばあちゃんがこちらを振り向く。

リカバリーガールだ。

「治療お願いできますか?」

私がそう言うと、リカバリーガールは
私の腕の擦り傷や服についた砂をちらっと見て、
小さく頷いた。

「大怪我じゃないね。座りな」

私は素直に椅子に座る。

次の瞬間、リカバリーガールは
私の腕に口づけてめちゃくちゃ吸ってきた。

個性の発動。

体の奥に溜まっていた鈍い痛みが、
ふっと軽くなる。

打撲の違和感も、擦り傷のヒリヒリも、
みるみる消えていった。

「はい、終わり」

「ありがとうございます!」

私はぺこっと頭を下げて、救護室を後にした。
 

スタンド席へ戻る途中、
スタジアムの熱気がまた体を包む。

観客席は相変わらず満員で、
会場全体がざわめいていた。

私はA組の席を探しながら階段を上がる。

すると、すぐに大きな声が聞こえた。

「あ!綺羅ー!お疲れさまー!」

芦戸ちゃんだ。

大きく手を振っているのがすぐに見えた。

「綺羅ちゃん惜しかったねー!」

葉隠ちゃんも駆け寄ってくる。

「爆豪相手にやり合えてんのほんとすげーよ!」

切島くんが興奮した顔で言う。

「ほんと、速すぎて全然目で追えなかったわ」

上鳴くんは笑いながら頭の後ろで手を組んでいた。

「ほとんど怪我なさそうで安心したわ」

梅雨ちゃんが私の様子をじっと見て言う。

私は思わず笑ってしまう。

「皆んなありがとう!爆豪くん強かったよー!
楽しかったー!」

そう言うと、芦戸ちゃんと
葉隠ちゃんの間に腰を下ろした。

いつもの場所。

なんだか、それだけで安心する。

 

そして、いよいよ決勝だ。

ステージの上には、もう二人が立っている。

向かい合う姿を見て、私は思わず小さく頷いた。

(やっぱりなあ)

そんな気がしていた。

爆豪くんと轟くん。

どちらも強い。

この体育祭の中でも、ずっと目立っていた二人だ。

プレゼント・マイクの声が、スタジアムに響く。

「《さァいよいよラスト!!
雄英1年の頂点が決まる!!決勝戦!!
轟 対 爆豪!!!今!!START!!!!》」

合図と同時だった。

轟くんが腕を振る。

巨大な氷壁が一気に広がる。

観客席からどよめきが起きた。

でも、瀬呂くんの時ほどじゃない。

氷の厚さも、広がりも、どこか抑えられている。

「さっき緑谷くん言ってたね」

隣で葉隠ちゃんが言う。

「次の手を警戒してるって」

私は頷く。

確かに、あの氷は様子見みたいだった。

でも――

その氷壁に、爆豪くんはどうするのか。

次の瞬間だった。

BOOOOM!!!

爆発音。

氷壁の下が弾ける。

土煙の中から、まるでモグラみたいに
爆豪くんが飛び出した。

「うわっ!」

思わず声が出る。

そのまま轟くんの目の前まで一気に接近する。

轟くんが次の氷結を出そうと腕を動かす。

でも、その前に爆豪くんが動いた。

爆破。

勢いで上へ跳ぶ。

氷側――右側を避けて、轟くんの左側へ回り込む。

髪と肩を掴む。

そのまま爆破の勢いで――

投げた。

轟くんの体が場外へ飛ぶ。

観客席から驚きの声が上がる。

でも、轟くんもすぐ動いた。

地面に氷壁を張る。

そのまま滑るようにスライドして、
爆豪くんへ向かう。

炎側の左手が爆豪くんの腕を掴む。

(来る……!)

私は思わず身を乗り出す。

でも。

炎は、出なかった。

そのまま牽制だけして、
轟くんは爆豪くんを投げ捨てる。

 

試合を見ていても、どこか変だった。

爆豪くんは本気で攻めている。

でも轟くんは――

集中していない。

そんな空気が、はっきり伝わってくる。

 

「ーーーー…俺じゃあ力不足かよ。
てめェ!!虚仮にすんのも大概にしろよ!!
ぶっ殺すぞ!!!
俺が取んのは完膚なきまでの1位なんだよ!
舐めプのクソカスに勝っても取れねんだよ!
デクより上に行かねえと意味ねえんだよ!!
勝つつもりもねえなら 俺の前に立つな!!!
何でここに立ったんだクソが!!!」

爆豪くんの怒鳴り声が、スタジアムに響いた。

観客席が静まり返る。

その時だった。

「負けるな頑張れ!!!!」

A組の席から、緑谷くんが立ち上がって叫ぶ。

声がステージまで届く。

爆豪くんが体を回転させる。

爆破。

そのまま轟くんへ突っ込む。

轟くんの右側――頭のあたりから、
一瞬だけ炎が出た。

でも。

攻撃が当たる、その瞬間。

炎が消えた。

そして――

大爆発。

煙が一気に広がる。

プレゼント・マイクの実況が響く。

「《特大火力に勢いと回転を加え
まさに人間手榴弾!!
轟は緑谷戦での超爆風を
打てなかったようだが、果たして……!!》」

煙がゆっくり晴れる。

まず見えたのは――

うつ伏せの爆豪くん。

そして。

場外。

砕けた氷の上で、仰向けに倒れている轟くん。

 

爆豪くんはすぐ起き上がった。

そして、轟くんを見た瞬間。

怒りで顔が歪む。

胸ぐらを掴み上げた。

「オイっ…ふっふざけんなよ!!
こんなの!こんっ…」

その途中だった。

ふわっと甘い香りが広がる。

ミッドナイト先生の眠り香。

爆豪くんの体がぐらりと揺れた。

そのまま、倒れる。

審判が宣言する。

「轟くん場外!!
よってーーー…爆豪くんの勝ち!!」

プレゼント・マイクが叫ぶ。

「《以上全ての競技が終了!!
今年度雄英体育祭1年
優勝はーーー…A組 爆豪勝己!!!!》」

 

スタジアムは大歓声に包まれている。

でも。

その中心にいる二人は。

爆豪くんも、轟くんも。

深く眠ったままだった。









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