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「じゃ そろそろ 出来た人から発表してね!」

ミッドナイト先生がそう声を掛ける頃には、
教室のあちこちでペンを置く音が聞こえていた。

私もボードを眺めながら、軽く息を吐く。

(やっぱり発表するんだよね…)

書いている時点でなんとなく
予想はしていたけれど、
こうして改めて言われると少しだけ緊張する。
ヒーロー名なんて、
まだ遠い未来のものみたいに思っていたのに。

すると一番に手を上げたのは青山くんだった。

まるで舞台に上がる俳優みたいに
優雅な動きで教卓の前に立つ。

「行くよ☆ 輝きヒーロー
I can not stop twinkling.」

そう言いながら、青山くんはボードを高く掲げた。

「「「「短文!!!」」」」

教室が一斉にツッコむ。

確かに、ヒーロー名というより英語の文章だ。

「そこはIを取ってCan.tに
省略した方が呼びやすい」

ミッドナイト先生が冷静にアドバイスを入れる。

「それね マドモアゼル☆」

青山くんは相変わらずの
キラキラした笑顔で返していた。

(うん…青山くんらしい)

思わず私はくすっと笑ってしまった。

「じゃあ 次アタシね!」

勢いよく席を立ったのは三奈ちゃん。

「エイリアンクイーン!!」

まるで映画のタイトルみたいなヒーロー名に、
ミッドナイト先生の目が一瞬丸くなる。

「ツー!!血が強酸性のアレを目指してるの!?
止めときな!!」

即座にストップが入った。

「ちぇー」

三奈ちゃんは唇を尖らせながら席に戻ってくる。

青山くんと三奈ちゃんのせいで、
教室の空気はすっかり
大喜利みたいな雰囲気になっていた。

でも、その流れを変えたのは梅雨ちゃんだった。

「FROPPY」

シンプルで覚えやすい名前。

(梅雨ちゃんらしいなあ)

落ち着いていて、でもちゃんと個性が分かる。

ミッドナイト先生も満足そうに頷いていた。

続いて立ったのは切島くん。

「烈怒頼雄斗(レッドライオット)!」

力強い声でそう発表する。

昔のヒーローをリスペクトした名前らしく、
教室のあちこちから感心した声が上がる。

「うあ〜 考えてねんだよな まだ俺」

上鳴くんが頭をかきながらぼやく。

すると隣から響香ちゃんが顔を向けた。

「付けたげよっか?ジャミングウェイ」

「武器よさらばとかのヘミングウェイもじりか!
インテリっぽい!カッケェ!」

上鳴くんは一瞬で乗り気になる。

でも次の瞬間、

「〜〜〜いやっ せっかく強いのにブフッ!
すぐ…ウェイってなるじゃん…!?」

響香ちゃんは口を押さえて笑いを堪えていた。

「耳郎お前さァふざけんなよ!」

上鳴くんが怒鳴る。

そのやり取りが面白くて、
教室のあちこちから笑い声が漏れた。

その後はテンポよく発表が続いていく。

響香ちゃんは「イヤフォン=ジャック」
障子くんは「テンタコル」
瀬呂くんは「セロファン」
尾白くんは「テイルマン」

三奈ちゃんは結局「Pinky(ピンキー)」

上鳴くんは「チャージズマ」

透ちゃんは「インビジブルガール」

次々と名前が出ていくたびに、
教室はどんどん盛り上がっていった。

ミッドナイト先生も楽しそうに
コメントを入れている。

百ちゃんは「クリエティ」

常闇くんは「ツクヨミ」

峰田くんは「グレープジュース」

口田くんは「アニマ」

轟くんは「ショート」

焦凍という名前そのままだった。

(轟くんらしいな…)

シンプルで、無駄がない。

少し間があったからチャンスだと思って、
私はスッと手を挙げた。

「はい!」

自分でも思ったより自然に声が出る。

「はい!星宮さん!」

ミッドナイト先生に指名されて、私は席を立った。

教室の前に歩いていく。

皆の視線が少し集まるのを感じたけれど、
不思議と緊張はしていなかった。

(大丈夫)

これは私が決めた名前だ。

「希望のヒーロー!ステラです!」

そう言って、私はボードを教卓に乗せて掲げた。

一瞬の静けさ。

それから、

「「「おお!」」」

教室のあちこちから声が上がった。

「綺羅ちゃんぽーい!」

透ちゃんが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。

私は少しだけ照れながら笑った。

するとミッドナイト先生も頷く。

「そうね!星宮さんの明るさと、
個性由来の光と名前の星が
上手く合わさってらしさが出てるわ!」

(よかった…)

胸の奥で、ほっと息をつく。

「ありがとうございます!」

私は頭を下げて席に戻った。

すると入れ替わるように爆豪くんが立ち上がる。

「お!じゃあ爆豪くん発表ね!」

ミッドナイト先生が声を掛ける。

爆豪くんは無言のまま前に歩き、
ホワイトボードを教卓に――

バン!!

強く叩きつけるように置いた。

「爆殺王!」

教室が一瞬静まる。

あまりにも物騒な名前だった。

さっきまでノリノリだった
ミッドナイト先生の表情が、すっと落ち着く。

「そういうのは止めた方がいいわね」

きっぱりと却下された。

「何でだよ!!」

爆豪くんが食ってかかる。

でも確かに、爆殺という言葉は
ヒーロー名としてはだいぶ危ない。

(うーん…)

顔もものすごく怖い。

切島くんが空気を和ませようとしたのか、

「爆発さん太郎は!?」

と冗談を言った瞬間、

爆豪くんは本気でブチギレていた。

結局、爆豪くんは再考。

その後、お茶子ちゃんは「ウラビティ」

そして残ったのは緑谷くんと飯田くん、
それから再考の爆豪くんだった。

緑谷くんは、

「デク」

そう発表した。

(デク…)

爆豪くんが蔑称として呼んでいる名前。

でも、お茶子ちゃんはずっと
あだ名みたいに呼んでいた。

その名前をヒーロー名にするなんて、
きっと緑谷くんにとって、
特別な意味があるんだろう。

そして飯田くん。

彼が書いたのは、

「天哉」

本名だった。

(飯田くんも本名なの意外だな…)

私は思わず瞬きをする。

周りも同じ反応だった。

もっと王道な、いかにもヒーローらしい名前を
付けそうなイメージだったからだ。

そして最後。

再考した爆豪くんがもう一度立ち上がる。

「爆殺卿!!!」

今度はさらに物騒になっていた。

もちろん――

これも却下。

どうやら爆豪くんは、どうしても
「爆殺」を入れたいらしい。

私は思わず苦笑いしてしまう。

そのあと、相澤先生が寝袋から
顔だけ出して説明を続けた。

「職場体験は一週間。
肝心の職場だが 指名のあった者は、
個別にリストを渡すから、
その中から自分で選択しろ。
指名の無かった者は予めこちらから
オファーした全国の受け入れ可の事務所40件。
この中から選んでもらう。
それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。
よく考えて選べよ。提出は今週末までだ。」

「あと2日しかねーの!?」

瀬呂くんが驚いて声を上げた。

その後、配られた冊子を開いた瞬間――

私は思わず目を丸くした。

(分厚い…)

轟くん、爆豪くん、そして私の冊子。

明らかに他の人よりページ数が多い。

全部読むだけでも大変そうだ。

でもよく見ると、いくつかの名前には
カラーマーカーが引かれている。

(あ…)

きっと相澤先生が、
有名なヒーローを分かりやすくしてくれたんだ。

私はそのページをめくりながら、
小さく息を吸った。

(職場体験か…)

プロヒーローの現場。

本物のヒーローの世界。

胸の奥で、わくわくする気持ちが
静かに膨らんでいた。








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