相澤先生から渡された冊子を机の上に広げ、
A組の皆はそれぞれ真剣な顔で
ページをめくっていた。
さっきまでのヒーロー名発表の
賑やかな空気とは少し違う。
今度は実際にプロの現場へ行くための
場所を決める時間だ。
机の上には、事務所ごとにまとめられた資料。
活動地域、得意分野、
事件解決件数、所属ヒーロー。
どこを選ぶかで、きっと経験できることも変わる。
「オイラはMt.レディ!!」
その静かな空気をぶち破るように、
峰田くんが胸を張って宣言した。
「峰田ちゃん やらしい事考えているわね」
梅雨ちゃんが、淡々とした声で言う。
「違うし!」
峰田くんは即座に否定していたけれど、
クラスの何人かは苦笑いを浮かべている。
(うーん…)
正直、私も「本当に?」とは思ってしまった。
「デクくんはもう決めた?」
お茶子ちゃんが、私の後ろの席にいる
緑谷くんへ歩み寄る。
「まず40名の受け入れヒーローらの
得意な活動条件を調べて、系統別に分けた後
事件・事故解決件数をデビューから現在までの
期間でピックアップして、僕が今必要な要素を
最も備えている人を割出さないといけないな……
こんな貴重な経験そうそうないし慎重に決めるぞ。
そもそも事件がないときの
過ごし方なども参考にしないといけないな。
ああ忙しくなるぞうひょー」
案の定、緑谷くんはぶつぶつと
早口で語り始めていた。
(始まった…)
私は前の席で、思わず小さく笑う。
ヒーローの事になると集中力が凄い。
「あ!ごめん!
麗日さんはもうヒーロー事務所決めた!?」
急に我に返った緑谷くんが、
お茶子ちゃんに聞き返す。
「うん!ガンヘッド事務所!」
お茶子ちゃんは拳を前に突き出しながら答えた。
「え?バトルヒーローガンヘッドの事務所!?
ゴリッゴリの武闘派じゃん!!
麗日さんがそこに!?」
緑谷くんは本気で驚いている。
「うん。指名来てた!」
お茶子ちゃんは少し照れながら、
でもどこか誇らしそうに笑っていた。
「てっきり13号先生のような
ヒーロー目指してるのかと…」
緑谷くんが首を傾げる。
「最終的にはね!
こないだの爆豪くん戦で思ったんだ。
強くなればそんだけ可能性広がる!
やりたい方だけ向いてても見聞狭まる!と!」
(なるほど…)
確かに、あの試合は印象的だった。
爆豪くんに何度吹き飛ばされても、
何度でも立ち向かっていった。
そして最後には、あの流星群。
あれは確かに――強いヒーローの戦い方だった。
お茶子ちゃんもきっと、
自分の可能性を広げようとしているんだろう。
私は机の上の冊子をぱらぱらとめくる。
でも正直、全部を読むつもりはなかった。
(もう決めてるし)
序盤のページを見た時点で、
私の答えは決まっていた。
「綺羅ちゃんはどこにするの?」
透ちゃんが横から声を掛けてきた。
「ベストジーニスト!指名来てた!」
私は思わず嬉しくて、ぱっと笑った。
「星宮さんNo.4から指名来てたの!?凄い!」
後ろから緑谷くんが勢いよく食いついてくる。
「ありがとー!憧れのヒーローだから即決した!」
私は振り返って笑った。
「ベストジーニストは繊維を操る
ファイバーマスター!繊細なコントロールで
ヴィランの衣類やワイヤーで
締め付け拘束するヒーローだから、
個性コントロールが細かいスターライトの
個性を持つ星宮さんと相性ぴったりだね!」
案の定、緑谷くんのヒーロー解説が始まる。
お茶子ちゃんと透ちゃんも、
うんうんと頷いていた。
「うん!でもそれだけじゃないんだけどね、」
私がそう言うと、
「え?」
三人が同時に首を傾げた。
その瞬間だった。
前の席から、
「テメェ俺の真似すんじゃねえ!」
爆豪くんの怒鳴り声が飛んできた。
(え?)
私は一瞬ぽかんとする。
真似?
ということは――
「え!爆豪くんもベストジーニストなの!?
カッコいいよね!シュッとしてて!スマートで!」
私は思わず身を乗り出して、
前の席の爆豪くんの方へ体を向けた。
「違え!トップに近え順で
こいつが一番近えからだ!」
爆豪くんは冊子を指で叩きながら言う。
「そうなんだ!でも一緒で嬉しいよ!
職場体験楽しみだねー!」
私は本当に嬉しくて、つい笑ってしまう。
その反応に、後ろの三人は固まっていた。
「だからパクんなつってんだろ!」
爆豪くんがまた怒鳴る。
「パクってないよ!爆豪くんの方が意外だもん!」
「んだとコラ!もういっぺん吹き飛ばすぞ!」
体育祭のことを言っているらしい。
私は思わず笑ってしまった。
「吹き飛ばされないように
ベストジーニストの元で学ばせてよ」
そう言いながら肩をすくめる。
もちろん、事務所を変えるつもりはない。
すると爆豪くんはさらに眉を吊り上げる。
「テメェ…!」
怒鳴り声は相変わらず大きい。
でも――
私は全然怖くなかった。
むしろ、少し楽しいくらいだ。
結局そのあとも、私と爆豪くんの
言い合いはしばらく続いた。
怒鳴られても、面白くて私は笑って返す。
それが余計に爆豪くんを
苛立たせている気もするけれど。
その様子を、後ろで見ていた三人――
緑谷くん、お茶子ちゃん、透ちゃんは、
しばらく言葉を失っていた。
特に緑谷くんは、
信じられないものを見るような顔をしている。
(あれ?)
どうしたんだろう。
そう思いながら、私はもう一度冊子を開いた。
ベストジーニスト事務所。
そのページを見つめながら、
胸の奥が少しだけ高鳴る。
(職場体験…)
きっと、簡単じゃない。
でも――
すごく楽しみだった。
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