ボトムをハイウエストの
スキニーパンツに履き替えた私は、
ご機嫌な足取りで事務所へ戻ってきた。
デニムは想像していたよりずっと質が良く、
体にぴったりと馴染んでいる。
脚のラインがすっきり見えて、
鏡で見た時に思わず「可愛い…!」と
声が出そうになったくらいだった。
事務所のフロアへ戻ると、
先にいたサイドキック達の視線が
一斉にこちらへ向く。
「おお……」
小さく、けれど確かに感嘆の声が上がった。
私は一瞬きょとんとしてしまう。
(え、そんなに?)
デスクの前に立っていたベストジーニストが、
ゆっくりこちらを見た。
「うむ。よく似合っている」
そう言って頷く。
「君も身なりを整えるから待っていなさい」
その言葉に私は素直に頷き――そして、
その隣の光景を見て思わず口元を押さえた。
(え、爆豪くん……!)
笑ってしまいそうになるのを、必死で堪える。
なぜなら。
ベストジーニストは爆豪くんを椅子に座らせ、
櫛を手にして髪を整えている最中だったからだ。
しかも、その整え方が問題だった。
「うむ……毛髪も矯正し甲斐があるな」
櫛を通しながら、ベストジーニストが静かに呟く。
「毛質は柔らかいのに意志が強く跳ね上がる」
爆豪くんの髪は、
普段まるで爆発したように逆立っている。
その髪を、ベストジーニストはみっちりと
8:2分けに整えようとしていた。
いつも自由に跳ねている金髪は、
今は櫛で押さえつけられている。
その姿は――
(優等生みたい……)
正直、あまりにも似合っていなくて面白い。
いつもの凶暴な雰囲気の爆豪くんと、
きっちり整えられた七三分けの髪型の
ギャップがすごすぎて、笑いが込み上げてくる。
でもここで笑ったら絶対怒られる。
私は必死に口元を押さえた。
けれど爆豪くんの髪は、
そう簡単には整えられない。
櫛で押さえても、ぴょんと元に戻ろうとする。
「母親譲りの毛髪舐めんじゃねえ!」
爆豪くんが不機嫌そうに言い放つ。
私は思わず目を瞬かせた。
(え、爆豪くんのお母さん……?)
髪型が母親譲りなのは初耳だった。
でも――
(そこドヤるところなんだ……)
心の中で小さく突っ込んでしまう。
「君はこれから時間を掛けて矯正していこう」
ベストジーニストは落ち着いた声で言う。
「焦る事はない。まだ初日だ」
そして次の瞬間、視線がこちらへ向く。
「星宮くん、君も整えよう」
「え!?私も!?」
思わず声が上がってしまった。
でも促されるまま椅子に座る。
ベストジーニストが櫛を手に取る。
そして、私の前髪にそっと触れた。
(あわわわ……!)
心臓が一気に跳ねる。
憧れのヒーローに、こんな至近距離で
髪を整えられるなんて思ってもみなかった。
ベストジーニストは
鏡越しに私の髪を見ながら言う。
「うむ。ポニーテールは後毛もなく、
綺麗に纏められている」
櫛がさらりと髪を通る。
「毛質も柔らかく柔軟性があり、素直だ」
(うわあああ……!)
内心は完全に大混乱だった。
顔が熱い。
絶対今、赤くなっている。
(憧れのヒーローに髪整えられてる……!)
その様子を見ていたのか、
後ろから舌打ちが聞こえた。
爆豪くんだ。
けれどベストジーニストの手は止まらない。
前髪をすっと整え、8:2に軽く分ける。
それだけだった。
作業はほんの一、二分。
「よし」
ベストジーニストが櫛を下ろす。
「では、パトロールに向かう」
静かな声で言う。
「2人とも着いてきなさい」
そう言ってベストジーニストは
すっと立ち上がった。
裾を整え、身なりを確認する
その動作すら無駄がない。
そのまま迷いなく歩き出す。
私は慌てて立ち上がり、
爆豪くんと顔を見合わせた。
そして――
ベストジーニストの後ろを追い、
ジーニアス事務所の外へと向かった。
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