「出来た!」
思わず声が出た。
ベストジーニストの元で個性操作の訓練を始めて、
今日で最終日。
光粒子で星座を作るこの訓練は、
最初こそ思うようにいかなかった。
星の位置が少しずれるだけで形が崩れてしまうし、
粒子を圧縮しすぎれば光が強くなりすぎて
輪郭が乱れる。
けれど何度も繰り返すうちに、
コツが分かってきた。
最初は一つの星座を作るだけで精一杯だったのに、
今では違う。
私はゆっくり手を動かす。
空間に散っている光粒子が呼応するように集まり、
次々と形を成していく。
牡羊座、牡牛座、双子座。
蟹座、獅子座、乙女座。
十二星座が円を描くように並ぶ。
そこからさらに、
星の位置を少しずつずらしていく。
円がゆっくり回転するように、星座が流れていく。
一周。
すべての星座を動かし終えた瞬間、
光がふっと安定した。
(よし……!)
胸の奥がじんわりと熱くなる。
元々、自分の個性――
スターライトはかなり扱えている
方だと思っていた。
けれどベストジーニストの元で
訓練してみて分かった。
「扱える」と「洗練されている」は、全然違う。
光の粒の一つ一つまで意識できるようになった今、
個性の見え方そのものが変わっていた。
「美しく洗練された星座だ」
ベストジーニストの声が静かに響く。
「後は君の発想次第。
その洗練された個性をどう活かすかが次の課題だ」
私は姿勢を正す。
「それは学舎で同志の成長と共に
作っていけるだろう」
その言葉に、胸の奥が少し温かくなった。
「一週間ありがとうございました!」
私は深く頭を下げた。
本当に濃い一週間だった。
個性の使い方。
ヒーローとしての立ち振る舞い。
そして――
「……」
ベストジーニストがジッと私を見て言った。
「あの倉庫で助けた姉妹の1人が
こうしてヒーローを目指し、
私の元へ来てくれたとは不思議な縁だな」
「え…」
その言葉に、思考が一瞬止まる。
私は一拍置いてから――
「覚えてくれてたんですか!?」
思わず大きな声が出てしまった。
ベストジーニストは落ち着いたまま答える。
「助けた者、助けられなかった者、
それらを覚えていくのも
ヴィンテージデニムの秘訣だ」
「ヴィンテージデニム…!」
思わず口に出す。
(ちょっと何言ってるか分からないな……)
一週間経ってもデニムの例えは分かりづらい。
(帰ったらデニムについて調べておこう……)
私は心の中で決意した。
それでも、
覚えてくれていたことは本当に嬉しかった。
「私も忘れないように気を付けます!」
「そうしたまえ。
あの分かりづらい倉庫で輝いた光のおかげで、
私は君を見つける事が出来た。
妹さんもあの時は、
君がヒーローだったに違いないだろう」
「ありがとうございます…!」
綺羅のお礼に、ベストジーニストは軽く頷く。
そして、ふと思い出したように言った。
「さて、問題の爆豪だが見てくれ」
指先で向こうを示す。
「ついに安定した美しいヘアセットが
キープ出来ている」
私はそちらを見る。
そこには――
爆豪くんがいた。
髪はきっちり八対二。
一糸乱れぬ分け目。
しかも。
(……崩れてない)
思わず声が出る。
「おお!」
何日も見てきた光景だけど、今日は違う。
手を離しても、髪が爆発しない。
しっかりと形が保たれている。
「綺麗に整った最終日になったな」
ベストジーニストが満足そうに言う。
「最後に君達のヒーロー名を聞いておこう」
私はすぐに顔を上げた。
「希望ヒーロー ステラです!」
自然と声が弾む。
「君らしいヒーロー名じゃないか」
ベストジーニストから褒められるなんて光栄だ。
そして爆豪くんを見る。
「爆豪、君のは?」
爆豪くんは少しだけ黙ったあと――
「……バクゴー」
ぽつりと言った。
私は少しだけ目を瞬かせる。
(あ……)
でも、そうだった。
爆豪くんのヒーロー名は、まだ仮のままだ。
「バクゴー?そのままか、意外だな」
ベストジーニストが言う。
爆豪くんはすぐにキレた。
「あっためてたやつ全部ボツになったんだよ!」
声は荒い。
けれど。
髪は崩れない。
(すごいキープ力……)
「どんな名前だ?」
ベストジーニストが興味深そうに聞く。
爆豪くんは胸を張る。
「爆殺神!!」
自信満々だった。
しかし。
ベストジーニストは一言。
「小学生かな?」
静かなツッコミだった。
私は思わず吹き出しそうになるのを
必死でこらえる。
「名は願い」
ベストジーニストが静かに言った。
「己がどう在りたいか、在るべきか」
爆豪くんの顔を正面に向け、姿勢を整える。
「君はまだ世界を見ようとしていない」
その声は厳しいけれど、どこか穏やかだった。
「私は君に世界を見せたいのだ」
少し間を置いて、続ける。
「己が在りたいもの、それを見つけた時、
ヒーロー名をもう一度聞こう」
その言葉を聞きながら、私は静かに考える。
――己がどう在りたいか。
――在るべきか。
私の場合はもう決まっている。
希望の星。
ステラ。
ベストジーニストの元で学んだこと。
光を整えること。
ヒーローとして在ること。
それを胸の中でそっと噛みしめながら、
私は心の中で誓った。
(この光で――)
(人を導けるヒーローになろう)
✳︎
..