職場体験を終えた私は、
爆豪くんと並んで電車の座席に座っていた。
窓際に座っている爆豪くんは、
腕を組みながら外の景色をじっと見ている。
電車が走るたびに、流れる街並みと
夕方の光が窓に反射していた。
私はというと、まだどこか現実感がなかった。
(ベストジーニストの事務所に……
一週間もいたんだよね)
思い返すだけで、胸の奥が少しふわふわする。
憧れのヒーローの元で訓練を受けて、
パトロールに出て、話までしてもらって。
それが全部、本当にあったことだと思うと
まだ信じられない。
「ベストジーニスト凄く優しかったね」
思わず口から出た感想に、爆豪くんが即座に返す。
「どこかだ!」
あまりにも即答だったので、
思わず少し笑いそうになる。
確かに爆豪くんは、
あの一週間ずっと矯正されていた。
勝負を挑んでは拘束され、髪型を整えられ、
言葉遣いを直されていた。
「普通に職場体験させて貰えるだけじゃなくて、
指導してもらえたのは十分優しいよ」
そう言うと、爆豪くんはまだ
窓の外を見たまま吐き捨てる。
「テメェはだろが。
こっちはろくなアドバイス貰えてねえ」
少し不貞腐れたような声だった。
「爆豪くんの方が熱心に
矯正してもらってたじゃない」
「これはアイツの趣味だろ!」
爆豪くんは不機嫌そうに言う。
「昨日からガシガシ洗っても
癖が残って戻りにくくなってんだ!」
そう言われて改めて見ると、
爆豪くんの髪はまだきっちり
八対二に分かれている。
あの事務所では見慣れてしまっていたけれど――
(これで雄英行ったら絶対騒がれるよね……)
想像するだけで少し面白い。
爆豪くんは舌打ちをした。
「チッ……テメェは戦闘指導を受けてんのに、
俺はこんなくだらねえことに
時間かけられて無駄な時間過ごしたわ」
その言葉に、私は首を少し傾げる。
「そんな風には思わないけどな…」
そう言った瞬間、爆豪くんが
こちらをちらりと見た。
「個性操作は上手くいったのかよ」
思わず目を瞬かせる。
(あれ?)
てっきりもう話は終わりかと思っていた。
でも爆豪くんの方から聞いてくれた。
「うん!」
私は少し身を乗り出して答える。
「私の個性って私が思ってた以上に自由で、
やれる事沢山あるみたい。
それが出来るように細かい操作訓練したんだけど、
これからも続けるよ!
技ももっと沢山増えると思う!」
話しながら、つい声が弾んでしまう。
あの星座の訓練。
光粒子を整えて形を作る感覚。
今でも頭の中に残っている。
「ベストジーニストは私がヒーローを目指した
きっかけの憧れのヒーローだったから、
インターンも呼ばれるといいなあ」
私がそう言うと、
爆豪くんが思い出したような顔をした。
「でけえ声で話してたから聞こえてたわ」
少しうるさそうな顔をしている。
「あ……ごめんね」
私は苦笑いをする。
「本当にびっくりしちゃったから」
少しだけ息を吸う。
「私が8歳とかそれくらいの時に
妹とヴィランに誘拐されちゃって…」
電車の音が静かに流れる。
爆豪くんは何も言わない。
でも遮らずに聞いてくれている。
「真っ暗な倉庫に閉じ込められて、
妹が泣き始めちゃって、私も心細かったんだけど、
元気付けなきゃと思って思いっきり発光させたの」
その時のことを思い出す。
暗い倉庫。
妹の泣き声。
そして――
光。
「そしたらヴィラン怒っちゃって
危なかったんだけど、ベストジーニストが現れて
ヴィランを一瞬で捕まえて、助けてくれた…」
私は少し笑う。
「あの時、発光した私よりも
ベストジーニストが輝いててカッコよかったの!」
思い出すだけで胸が温かくなる。
「不安だった気持ちがパッて晴れるような!」
電車の窓に夕日が映る。
その光の中で、爆豪くんはまだ黙っていた。
でも視線は窓の外ではなく、
どこか少しだけこちらに向いていた。
「だから、希望ヒーローって名前も付けたの。
あの時のベストジーニストみたいに、
誰かの希望の光で在りたくて…」
私は少し照れながら言う。
「爆豪くんのヒーロー名も楽しみだね!」
そして続ける。
「決めたらベストジーニストに教えるの?」
爆豪くんは短く答えた。
「またアイツに会ったらな」
「会えるよきっと」
私はそう言って笑う。
爆豪くんはその笑顔を一瞬だけ見て――
すぐにそっぽを向いた。
「雄英帰ったら次期末かー」
ふと思い出して言う。
「爆豪くん頭良い?」
爆豪くんは小さく舌打ちをする。
その後も私は、目的の駅に着くまで
爆豪くんに話しかけ続けていた。
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