一週間ぶりの登校。
教室に入った瞬間、
どこか懐かしい空気に胸の奥がふっと緩む。
職場体験の間はそれぞれ別々の場所にいたはずなのに、こうしてまた同じ教室に戻ってくると、自然と“いつもの日常”が戻ってくるのが不思議だった。
私は三奈ちゃんと透ちゃんと一緒に、さっそく職場体験の話で盛り上がっていた。
「それでね、ベストジーニストの事務所ってすっごいオシャレで――」
話している途中で、教室の扉がガラッと勢いよく開いた。
その音に何気なく視線を向けた瞬間――
「「アッハッハッハッマジか!!マジか爆豪!!」」
切島くんと瀬呂くんが、腹を抱えて笑い出した。
何事かと思ってその先を見ると――
(……あ)
そこにいたのは、爆豪くん。
そして、その髪型。
ぴっちりと分けられた8:2分け。
見慣れた爆発頭ではなく、あまりにも整いすぎたその姿に、一瞬思考が止まる。
「笑うな!クセついちまって洗っても直んねえんだ!」
爆豪くんが怒鳴る。
でも、その怒鳴り声すら、髪型のせいで威力が半減している気がする。
「「ダッハッハッハッ!!!」」
さらに笑いが加速する。
「おい笑うな!ブッ殺すぞ!」
怒っているのに、どうしても面白く見えてしまう。
(……だめ、思い出しちゃう)
あの一週間。
毎朝、あの髪型にされていた光景。
「やってみろよ8:2坊や!!アッハハハハハハ!!!」
「ひー!!!!!!」
切島くんの煽りに、瀬呂くんは涙を浮かべて笑っている。
「死ねえ!!!」
次の瞬間――
BOOM!!
爆発音と共に、爆豪くんの髪が弾けるように逆立ち、いつもの爆発頭に戻った。
その変化に、教室がさらにどっと沸く。
「綺羅ちゃんよく一週間一緒にいたね!」
透ちゃんの声に振り向く。
「笑い過ぎて腹筋ついた?」
三奈ちゃんも楽しそうに聞いてくる。
「3日で慣れたよ!」
そう答えた瞬間、
「テメェ余計な事言うな!!」
爆豪くんがこっちまで怒鳴ってきた。
その様子に、また笑いが広がる。
(ほんとに変わらないなあ)
騒がしくて、でもどこか安心する空気。
けれど――
ふと視線を教室の奥に向けた時、少しだけ違和感に気付く。
緑谷くん、飯田くん、そして轟くん。
三人で集まって話している。
(あれ……?)
この三人が一緒にいるのは珍しい。
そう思った瞬間――
「俺は割とチヤホヤされて楽しかったけどなー
ま、一番変化というか大変だったのは…お前ら三人だな!」
上鳴くんの声が教室の中央から響いた。
その一言で、自然と全員の視線が三人に集まる。
保須市での事件。
ヒーロー殺し。
ニュースでも大きく報じられていた。
「そうそう ヒーロー殺し!!」
「命あって何よりだぜ マジでさ」
「…心配しましたわ。」
「エンデヴァーが救けてくれたんだってな!さすがNo.2だぜ!」
次々に飛ぶ言葉。
でも、その空気の中で――
轟くんがゆっくりと視線を落とした。
「…そうだな 救けられた。」
短く、淡々とした声。
「うん。」
緑谷くんも静かに頷く。
(……なんか)
胸の奥が少しだけざわつく。
言葉にしにくい違和感。
「俺ニュースとか見たけどさ、ヒーロー殺しってヴィラン連合とも繋がってたんだろ?もしあんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾッとするよ」
尾白くんの言葉に、上鳴くんが続ける。
「でもさあ、確かに怖ぇけどさ、尾白動画見た?
アレ見ると、本気っつーか執念っつーか、かっこよくね?とか思っちゃわね?」
その軽い口調に、空気が一瞬で変わった。
「上鳴くん…!」
緑谷くんが慌てて制止する。
「あ、あっ…飯…ワリ!」
上鳴くんは口を押さえた。
(……あ)
教室の空気が、一段重くなる。
飯田くんのこと。
あの日、途中で早退した理由。
ヒーロー殺し。
その中心にいるのは――
沈黙の中で、飯田くんが一歩前に出た。
「いや…いいさ。確かに執念の男ではあった…クールだと思う人がいるのも、分かる。
ただ奴は信念の果てに”粛清”という手段を選んだ。
どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ。
俺のような者をもうこれ以上出さぬ為にも!!
改めてヒーローへの道を俺は歩む!!!」
強い言葉だった。
まっすぐで、力強くて。
その声に、張り詰めていた空気が少しだけほどける。
「おおっ 飯田くん…!」
緑谷くんの表情が、少しだけ明るくなる。
(……よかった)
そう思った。
「さァそろそろ始業だ!席に着きたまえ!!」
飯田くんの号令で、教室が一気に動き出す。
みんな慌てて席に戻っていく。
私は自分の席に座りながら、ふと考える。
(職場体験、終わったんだなあ)
あの一週間で得たもの。
光の精度。
戦い方。
ヒーローとしての在り方。
そして――
少しだけ変わった、周りとの距離。
前を向く。
これからまた、次の授業が始まる。
「なんか…すいませんでした…」
上鳴くんのしょんぼりした声が聞こえて、思わず小さく笑ってしまった。
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