時は流れ、六月最終週―――。
梅雨はすっかり終わり、
じわじわと肌にまとわりつくような
暑さが顔を出し始めていた。
教室の窓から差し込む光もどこか強くなっていて、
夏の気配が確実に近づいているのを感じる。
そんな中――
「全く勉強してねーー!!」
教室に響き渡る上鳴くんの絶叫。
体育祭、そして職場体験。
行事が立て続けにあったせいで、
気付けば期末テストまで残り一週間を切っていた。
「体育祭やら職場体験やらで
全く勉強してねーー!!
ああああああああ!!!!」
「あっはっはっはっ」
その隣で三奈ちゃんが笑っているけれど、
あれは余裕じゃなくて現実逃避だ。
中間テストの順位を思い出せば、
それはすぐに分かる。
「期末は中間と違って
演習試験もあるのが辛えとこだよな」
そう言う峰田くんはなぜか
余裕そうに机に座って足を組んでいる。
(なんであんな余裕なの……)
実際、彼は順位が意外と高い。
その事実に、下位組から一斉にブーイングが飛ぶ。
「芦戸さん上鳴くん!が…頑張ろうよ!
やっぱ全員で林間合宿行きたいもん!ね!」
緑谷くんが一生懸命励ます。
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」
轟くんが淡々と言う。
「言葉には気をつけろ!!」
上鳴くんが胸を押さえて崩れ落ちる。
(普通に授業受けるだけじゃ……)
私は自分のノートを見ながら、そっと思う。
(復習しないと普通に無理だよね)
現代文のページを開くと、
線を引いたはずの箇所が妙に曖昧に見える。
(うーん……やっぱり
分かってるようで分かってない)
そんなことを考えていると――
「お二人とも、座学なら私、
お力添え出来るかもしれません」
教室の空気が一瞬で変わった。
「「ヤオモモーーー!!!!」」
下位組の歓声が響く。
まるで本当に救いの女神が現れたみたいだった。
「ウチもいいかな?二次関数、
ちょっと応用つまずいちゃってて……」
響香ちゃんがノートを持って近づく。
「わりィ俺も!八百万 古文わかる?」
瀬呂くんもすぐに続く。
「おれも」
尾白くんも静かに手を挙げる。
(みんな早いなあ……)
私は少し迷ってから、手を上げた。
「百ちゃん、私も良いかな?
現代文分からなくて…」
百ちゃんがこちらを見る。
その視線に、少しだけ背筋が伸びる。
ぞろぞろと人が集まっていく中で、
百ちゃんの表情がぱっと明るくなる。
「良いデストモ!!!」
両手を上げて、全力の歓迎。
その勢いに、思わず少し笑ってしまう。
「この人徳の差よ」
と呟く切島くんの声に、
後ろから爆豪くんの声が飛ぶ。
「俺もあるわ!てめェ教え殺したろか!」
「おお!頼む!」
(この流れで頼めるのすごいなあ……)
切島くんは本当にすごい。
爆豪くんの言葉は相変わらず荒いけど、
その中にある実力をちゃんと理解しているから、
ああやって自然に頼めるんだろうなと思う。
「では週末にでも私の家で
お勉強会催しましょう!」
ガタッと音が立つ。
「まじで!?うんっ ヤオモモん家楽しみー!」
三奈ちゃんがぱっと顔を輝かせる。
「ああ!そうなるとまずお母様に報告して
講堂を開けていただかないと…!」
(講堂……?)
家に講堂なんて初めて聞いたけど、
さらに百ちゃんは続ける。
「皆さん お紅茶はどこかご贔屓ありまして!?
我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなので
ご希望がありましたら用意しますわ!」
(ご贔屓…)
紅茶の銘柄にご贔屓なんて考えたことなかった。
私の家も紅茶は良く出てたけど
貰い物だからこだわりなく何でも飲んでた。
「必ずお力になってみせますわ…!」
その姿に、三奈ちゃんが優しい顔になる。
「……なんだっけ?いろはす?でいいよ。」
上鳴くんもどこか和んだ顔で言う。
「ハロッズですね!!」
百ちゃんはとても嬉しそうだった。
(話通じてるのかな……?)
思わず苦笑いが浮かぶ。
「休日A組で集まるの初だねー」
私は三奈ちゃんに声をかける。
「確かに!勉強会だけど楽しみー!」
三奈ちゃんもテンションが上がっている。
(勉強会、かあ)
少しだけノートを見る。
現代文のページ。
(ちゃんと“読む”練習、しないと)
感覚じゃなくて、ちゃんと理解する。
それはきっと――
(光の精度と同じだよね)
そう思うと、少しだけやる気が出た。
こうして週末、私は百ちゃんの家で
開かれる勉強会に参加することになった。
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